この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。
「IT業界で働きたいけど、パソコンスキルも経験もない…」
「就労移行支援がたくさんありすぎて、どこを選べばいいかわからない」
「障害特性があって通所できるか不安。在宅訓練という選択肢もあるの?」
「プログラミング未経験でも、本当にIT企業に就職できるの?」
こうした悩みを抱えているあなたに知ってほしいのが、ITに強い就労移行支援の存在です。
この記事では、未経験からIT就職を目指す障害当事者のために、就労移行支援事業所の選び方を5ステップで完全解説します。IT業界の基礎知識から、事業所選びの具体的なチェックポイント、見学・体験時の質問リスト、失敗しやすいパターンとその回避策まで、次の一歩を踏み出すために役立つ情報をひと通り整理しました。
特に重要なのは、「IT特化」を謳う事業所でも、実際の訓練内容や就職実績には大きな差があるという事実です。この記事を読むことで、広告やキャッチコピーに惑わされず、あなた自身の目標・特性・状況に合った事業所を見極める力が身につきます。
この記事で分かること
- 未経験からIT就職を目指すとき、就労移行支援がどう役立つのか
- IT業界にはどんな職種があり、障害特性とどう相性があるのか
- 「ITに強い就労移行支援」の具体的な見極めポイント
- 事業所選びで失敗しないための5ステップロードマップ
- 見学・体験時に必ず確認すべき10の質問
- よくある失敗パターンとその回避策
- 通所・在宅・ハイブリッド型の選び方と判断基準
まず結論:未経験からIT就職を目指すなら「就労移行支援」をどう使う?
未経験からIT就職を目指す場合、就労移行支援は**「技術習得」「実務経験」「就職活動サポート」の3つを同時に得られる**選択肢として非常に有効です。一般的な転職サイトやプログラミングスクールとの最大の違いは、障害特性への配慮と、就職後の定着支援まで含めた包括的なサポートにあります。
就労移行支援を活用するメリット3つ
- 基礎から段階的に学べる環境:タイピングやOfficeソフトなど、ITの土台となるスキルから始められる。プログラミング経験ゼロでも、自分のペースで学習を進められる
- 障害特性に配慮した訓練環境:体調やペースに合わせた通所日数の調整、在宅訓練の選択、感覚過敏への配慮など、無理なく続けられる環境が整っている
- 就職後の定着支援:就職して終わりではなく、職場定着のための相談や企業への働きかけなど、長期的なサポートが受けられる
IT就職までの基本的な流れ
就労移行支援を活用したIT就職は、おおむね以下のステップで進みます。
- 基礎訓練期(1〜3ヶ月):生活リズムの安定、PCスキル・ビジネスマナーの習得
- 専門訓練期(3〜9ヶ月):プログラミングやWebデザインなど、目指す職種に応じた専門スキルの習得
- 就職活動期(3〜6ヶ月):ポートフォリオ作成、履歴書・職務経歴書の準備、企業実習、面接対策
- 定着支援期(就職後6ヶ月〜):職場での困りごと相談、企業との調整、キャリアアップ支援
利用期間は制度上原則2年(一定の要件で延長もあり)で、実際の利用期間は個人の状況やペースによって1〜2年程度となることが多いです。重要なのは、焦らず着実にステップを踏むことです。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
「IT未経験で不安な方も多いですが、実際には『タイピングもおぼつかない』という状態から始めて、1年半後にはWebデザイナーとして就職された方もいます。大切なのは『できるかどうか』ではなく、『やりたいかどうか』。その気持ちがあれば、就労移行支援はきっとあなたの大きな力になります」
未経験×障害がある人がIT就職でつまずきやすいポイント
IT未経験で障害がある方が、一般的な転職活動でつまずきやすいポイントは主に4つあります。これらを理解することで、なぜ就労移行支援が有効なのかが見えてきます。
ポイント①:スキル習得の壁
「プログラミングを学びたい」と思っても、独学では何から始めればいいかわからず、挫折してしまうケースも少なくありません。書籍や動画教材は豊富にありますが、エラーが出たときに相談できる相手がいない、自分のペースで進められないといった問題があります。
特に発達障害の特性として「完璧主義」「過集中と疲労の波」といった傾向がみられる方の場合、一人で学習を続けることが難しくなる場合があります(もちろん個人差があります)。就労移行支援では、指導員に質問できる環境、仲間と励まし合える環境があり、無理なく継続できます。
ポイント②:実務経験の不足
IT企業の多くは「実務経験1年以上」を求めるため、未経験者は書類選考の段階で落とされやすいのが現実です。プログラミングスクールで学んでも、「学習したこと」と「実務でできること」の間には大きなギャップがあります。
就労移行支援では、企業実習(インターンシップ)を通じて実務経験に近い経験を積めます。また、ポートフォリオ作成のサポートもあり、未経験でもスキルを証明する材料を作れます。
ポイント③:障害特性への配慮不足
一般的な転職サイトや面接では、障害特性をどう伝えるか、どこまで配慮を求めていいかが分からず、結果的に無理をして体調を崩すケースがあります。また、企業側も「どう配慮すればいいか分からない」という不安を抱えていることが多いです。
就労移行支援では、企業への障害特性の説明や、合理的配慮の提案を専門職が代行してくれます。「この人にはこういう配慮があれば活躍できる」という形で、企業の不安を解消しながら就職活動を進められます。
ポイント④:生活リズムとメンタルの不安定さ
離職期間が長引くと、生活リズムが乱れ、「働く準備ができていない」状態になりがちです。面接で「週5日フルタイムで働けますか?」と聞かれても、自信を持って答えられないことが、就職活動の大きな壁になります。
就労移行支援では、通所を通じて生活リズムを整えることも訓練の一環です。週1日から始めて徐々に日数を増やし、最終的には週5日通所できるようになることで、「働く体力・メンタル」が整います。
就労移行支援で得られるもの(ITスキル以外も含めて)
就労移行支援は「プログラミングを教えてくれる場所」ではなく、IT就職に必要なすべてを包括的にサポートする場所です。
具体的には、①ITスキル習得、②就職活動サポート、③生活面サポート、④定着支援の4つの柱でサポートが提供されます。以下の表で、それぞれの具体的な内容と得られる効果を整理しました。
| サポートカテゴリー | 具体的な内容 | 得られる効果 |
|---|---|---|
| ITスキル習得 |
|
未経験から実務レベルのスキルを習得。ポートフォリオ作成で就職活動の武器に |
| 就職活動サポート |
|
障害特性を企業に適切に伝え、自分に合った職場を見つけられる |
| 生活面サポート |
|
「働く基礎体力」が身につき、安定して就労できる土台ができる |
| 定着支援 |
|
早期離職を防ぎ、長く働き続けられる。キャリアアップの相談も可能 |
特に重要なのが定着支援です。就労移行支援を経て就職した場合、原則として就職後6ヶ月間は事業所による職場定着支援が受けられます。その後も支援が必要な場合は、別制度の「就労定着支援」を利用することで、就職後3年6ヶ月目まで長期的なサポートを受けられる場合もあります(利用条件や期間は自治体や事業所によって異なります)。。
IT業界と主な職種をざっくり理解する
IT就職を目指す前に、「IT業界」と一口に言っても様々な職種があることを理解しましょう。ここでは、未経験から目指しやすい職種を中心に、仕事内容と求められるスキルを整理します。
IT業界は大きく分けて、システム開発・Web制作・インフラ・サポート・データ分析などの分野があります。「プログラミングができないとIT就職できない」というイメージがありますが、実際にはプログラミング不要の職種も多く存在します。
重要なのは、「自分はIT業界のどの領域で、どんな仕事をしたいのか」をイメージすることです。このイメージがあることで、就労移行支援でどんなスキルを優先的に学ぶべきかが明確になります。
未経験から狙いやすいIT関連職種
ここでは、IT未経験・障害がある方が実際に就職している職種を中心に、仕事内容と必要スキルレベルを紹介します。
IT関連の職種は大きく分けて、プログラミング不要の職種(ITサポート、データ入力、テスター、サイト更新など)と、専門スキルが必要な職種(プログラマー、Webデザイナー、Webマーケター、動画編集者)の2つに分かれます。
未経験から始める場合、まずプログラミング不要の職種でIT業界に慣れてから、興味が出てきたら専門スキルを学ぶという選択肢もあります。以下の表で、各職種の特徴を比較してみましょう。
| 職種 | 主な業務 | 必要スキルレベル | 未経験のハードル |
|---|---|---|---|
| ITサポート・ヘルプデスク | 問い合わせ対応、トラブルシューティング、マニュアル作成 | 基本的なPC操作、コミュニケーション能力 | 低〜中 |
| データ入力・事務 | データ入力、資料作成、メール対応 | タイピング、Excel・Word基本操作 | 低 |
| Webサイト更新・運用 | CMS操作、画像編集、簡単なHTML/CSS修正 | CMS操作、画像編集ソフト基本 | 低〜中 |
| テスト・検証(QA) | 動作確認、バグ報告、テストケース作成 | 注意深さ、正確な報告スキル | 低 |
| プログラマー・エンジニア | コーディング、テスト、バグ修正、チーム開発 | プログラミング言語、論理的思考力 | 高(6ヶ月〜1年の学習期間必要) |
| Webデザイナー | Webデザイン作成、バナー制作、HTML/CSSコーディング | デザインツール、HTML/CSS、デザインセンス | 中〜高 |
| Webマーケター | SEO対策、Web広告運用、アクセス解析 | SEO知識、Google Analytics、データ分析力 | 中 |
| 動画編集者 | 動画カット編集、テロップ挿入、エフェクト追加 | 動画編集ソフト、構成力、センス | 中 |
特に注目すべきは、プログラミング以外にも多様なIT職種があるという点です。それぞれのスキルについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
職種別の比較表:
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
「『プログラミングは難しそう』と思っている方には、まずITサポートやテスターなど、プログラミング不要の職種をお勧めしています。IT業界で働きながら興味が出てきたら、その後にプログラミングを学ぶという選択肢もあります。最初から完璧を目指す必要はありません」
障害特性とIT職種の相性イメージ
障害特性によって、IT職種との相性には傾向があります。ただしこれはあくまで「傾向」であり、個人差が大きいことを前提に参考にしてください。
発達障害(ASD・ADHD)の特性とIT職種
発達障害の特性は個人差が大きいですが、以下のような傾向がみられる場合があります(当てはまらない方も多くいます)。
- 集中力の持続が得意な傾向がある方:プログラミング、テスト業務など、長時間同じ作業に没頭できる職種と相性が良い場合があります
- 細部へのこだわりが強い傾向がある方:テスト・検証業務で、細かい不具合を見つける力が活かせる場合があります
- マルチタスクが苦手な傾向がある方:データ入力や、一つの作業を集中して行う職種が向いている場合があります
- 視覚的思考が得意な傾向がある方:Webデザイン、UI/UXデザインなど、視覚的な要素を扱う仕事で強みを発揮できる場合があります
精神障害(うつ病・適応障害など)の特性と配慮
- 体調の波がある方:在宅勤務可能な職種(プログラマー、Webデザイナー、データ入力など)を選ぶことで、体調に合わせた働き方が実現しやすくなります
- 対人ストレスが大きい方:チームよりも個人作業が中心の職種、リモートワーク可能な職種が向いている傾向があります
- 電話対応が負担な方:電話なしでメール・チャット中心のサポート職や、開発職を検討する選択肢があります
身体障害と通勤・作業環境
- 通勤が困難な方:完全在宅勤務が可能な職種(プログラマー、Webデザイナーなど)を優先的に検討できます
- 長時間座位が困難な方:作業時間の調整が可能な職場、リモート勤務で休憩を取りやすい環境を選ぶことができます
特性×職種の相性チェックリスト
あなたの特性と相性の良いIT職種は?
💡 重要:これはあくまで「傾向」です。個人差が大きいため、実際に訓練で複数の職種を試してみることをお勧めします。
重要なのは、「この特性だからこの職種」と決めつけず、実際に訓練で試してみることです。就労移行支援では、複数の職種を体験し、自分に合った方向性を見つけられます。
ITに強い就労移行支援の特徴とは?
「ITに強い」「IT特化」と謳う就労移行支援事業所は増えていますが、実際の訓練内容や就職実績には大きな差があります。ここでは、本当にIT就職をサポートできる事業所の見極めポイントを解説します。
優れたIT系就労移行支援の共通点は、①具体的で実践的な訓練カリキュラム、②IT企業との実質的なつながり、③就職後の定着を見据えたサポート体制の3つです。Webサイトやパンフレットの見栄えだけでなく、これらの実質を確認することが重要です。
「ITっぽい雰囲気」だけの事業所と、本当にIT就職に強い事業所を見分けるには、具体的な数字・事例・カリキュラムの詳細を確認することがポイントになります。見学時に、後述する質問リストを使って確認しましょう。
訓練カリキュラム(内容・レベル感・更新頻度)のチェックポイント
IT業界は技術の移り変わりが速いため、カリキュラムが定期的に更新されているかが重要です。5年前に作られたカリキュラムをそのまま使っている事業所では、現場で求められるスキルとのギャップが生じます。
チェックポイント①:プログラミング言語・ツールの具体性
「プログラミングを学べます」だけでは不十分です。どの言語を、どのレベルまで学べるのかを確認しましょう。
- 具体的な言語名が明記されているか:Python、Java、PHP、JavaScript、Rubyなど
- フレームワークやライブラリまで学べるか:React、Vue.js、Laravel、Djangoなど、実務で使われる技術を学べるかどうか
- 個人のレベルに合わせた学習ができるか:初心者向けのコースと、経験者向けのコースが分かれているか
チェックポイント②:ポートフォリオ作成のサポート
IT未経験者が就職活動で最も重要なのが、スキルを証明する「ポートフォリオ」です。訓練でポートフォリオ作成までサポートしてくれるかを確認しましょう。
- 実際に作品を作る機会があるか:架空のWebサイト、簡単なアプリなど、実際に手を動かして作品を完成させる経験
- ポートフォリオのレビュー・フィードバック:作った作品に対して、専門職からの具体的な改善アドバイスがあるか
- GitHubの使い方を学べるか:エンジニア職を目指す場合、GitHubでコードを公開することが一般的なため
チェックポイント③:実践的な課題・チーム開発の経験
教材を読むだけでなく、実際に手を動かして課題に取り組む時間があるかを確認しましょう。また、複数人でのチーム開発を経験できれば、実務に近い環境で学べます。
- 週にどのくらいの時間、実際にコードを書くか:講義時間と演習時間のバランス
- チーム開発やグループワークの機会:役割分担、進捗管理、コードレビューなど、実務で必要なスキルを経験できるか
- 定期的な発表・プレゼンの機会:自分の作品や学習内容を発表し、フィードバックをもらえるか
チェックポイント④:カリキュラムの更新頻度
IT業界のトレンドは常に変化しています。カリキュラムが定期的に見直されているかを確認しましょう。
- 直近のカリキュラム更新はいつか:少なくとも年1回は見直しがあることが望ましい
- 業界トレンドを反映しているか:生成AI、クラウド技術など、最新の技術要素が含まれているか
チェックポイント⑤:最新技術・トレンドへの対応
IT業界のトレンドは常に変化しています。近年特に注目されているのが生成AI(ChatGPT、画像生成AIなど)の活用です。業務効率化や新しい価値創造に生成AIを活用できるスキルは、就職活動で大きなアピールポイントになります。
- 生成AIの業務活用を学べるか:ChatGPTを使った文章作成、画像生成AIを使ったデザイン補助など
- 最新ツールの導入状況:Figma、Canva、Notionなど、現場で使われている最新ツールに触れられるか
カリキュラムチェックリスト
見学前に確認!カリキュラムチェックリスト
IT企業とのつながり・実習先・就職実績の見方
「就職率○○%」という数字だけでは、実態は分かりません。どんな企業に、どんな職種で就職しているかを確認することが重要です。
実績の見方①:職種の内訳を確認する
「IT企業への就職」と言っても、職種は様々です。プログラマーとして就職したのか、データ入力として就職したのかでは、必要なスキルレベルが全く異なります。
- 開発職(プログラマー・エンジニア)への就職実績:何名中何名が開発職に就いているか
- その他IT関連職(サポート・テスター・事務など)への就職実績:職種別の内訳を確認
- 在宅勤務・リモートワークでの就職実績:完全在宅や週数日在宅など、働き方の選択肢があるか
実績の見方②:企業実習(インターン)の実績
就職前に企業で実習を行う機会があるかは、IT就職において非常に重要です。実習を通じて実務経験を積み、そのまま就職につながるケースも多くあります。
- 実習先企業の業種・規模:大手企業だけでなく、中小・ベンチャーなど、多様な選択肢があるか
- 実習からの就職率:実習先にそのまま就職できた割合
- 実習期間と頻度:数日の体験なのか、数週間〜数ヶ月の本格的な実習なのか
実績の見方③:企業とのパートナーシップ
就労移行支援事業所が、IT企業とどの程度のつながりを持っているかも重要なポイントです。
- 定期的な企業説明会の開催:事業所内で、IT企業の人事担当者による説明会があるか
- 企業からの求人依頼:事業所に直接求人が来るか(ハローワーク経由だけでなく)
- 卒業生の採用企業との継続的な関係:卒業生が就職した企業と、その後も関係が続いているか
就職実績の確認ポイント表
| 確認項目 | ◎ 良い例 | △ 要確認 |
|---|---|---|
| 職種の内訳 | 「開発職◯名、サポート職◯名」と職種別に明記 | 「IT企業への就職率◯%」のみ |
| 企業実習 | 数週間〜数ヶ月の本格的な実習がある | 「企業見学」程度の短期体験のみ |
| 実習からの就職率 | 実習先への就職実績が具体的に示されている | 実習と就職の関連が不明 |
| 企業との関係 | 定期的な企業説明会、直接求人の紹介あり | ハローワーク経由のみ |
| 在宅・リモート就職 | 完全在宅、週◯日在宅などの実績を明示 | リモート就職実績の記載なし |
| 就職先企業名 | 一部でも企業名を公開(許可を得て) | 全く公開されていない |
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
「『就職率90%』と聞くと素晴らしく見えますが、実際にはデータ入力やコールセンターでの就職も含まれていることがあります。悪いことではありませんが、あなたが『プログラマーになりたい』と思っているなら、開発職への就職実績を具体的に確認してください」
通所・在宅・オンラインなど「通い方」の選択肢
体調や特性、通勤距離などによって、通所スタイルを選べる事業所が増えています。あなたの状況に合った選択肢があるかを確認しましょう。
主な通所スタイルには、事業所に毎日通う「通所型」、自宅からオンラインで訓練を受ける「在宅型」、両方を組み合わせる「ハイブリッド型」の3つがあります。それぞれのメリット・デメリット・向いている人を以下の表で整理しました。
通所スタイル比較表
| 通所スタイル | メリット | デメリット | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 通所型 |
|
|
生活リズムを整えたい、仲間と学びたい、対面での相談が安心 |
| 在宅型 |
|
|
通勤困難、対人不安が強い、リモートワークを目指す |
| ハイブリッド型 |
|
|
週数日は通所できるが毎日は難しい、通所と在宅の両方を試したい |
重要なのは、最初から「完全在宅」や「週5通所」に固執せず、柔軟に調整できる事業所を選ぶことです。訓練開始時は週2日通所からスタートし、慣れてきたら日数を増やす、途中で在宅に切り替えるといった調整ができる事業所が理想的です。
【完全ロードマップ】失敗しない就労移行支援選び5ステップ
ここからは、実際にIT就職に向けて就労移行支援を選ぶための、具体的な5ステップを解説します。このステップ通りに進めることで、「なんとなく選んで後悔」を防げます。
STEP1:「なぜITなのか」と「どんな働き方がしたいか」を言葉にする
いきなり事業所を探す前に、まず自分の軸を作ることが大事です。軸がないと、見学しても「結局どこがいいか分からない」状態になりやすくなります。
このSTEPでやること
- 「ITで働きたい理由」を1〜2行で書き出す
- 例:在宅勤務がしたい、人と関わる時間を減らしたい、手に職をつけたい
- 「絶対に外せない条件」と「できれば嬉しい条件」を分ける
- 在宅勤務の有無、通勤時間、残業の少なさ、対人の多さ など
- 今の自分の状態を簡単にメモする
- 週に何日通えそうか、PCスキルのレベル、体調の波はどの程度か
ポイント: きれいにまとめる必要はありません。スマホのメモ帳に箇条書きで十分です。この「自分の軸」を持っておくと、見学時に「ここは自分に合うか」の判断がしやすくなります。
STEP2:自宅やオンラインから「現実的に通える事業所」を洗い出す
ここでは「いいかどうか」ではなく、物理的に候補になる場所を広げる段階です。通所負担は想像以上に大きいので、無理のない範囲を意識しましょう。
通所型で見るポイント
- 家からの所要時間(目安:片道1時間以内)
- 通勤ラッシュの時間帯でも通えるか
- 駅からの距離(雨の日・夏場の負担も考慮)
在宅・オンライン利用の場合
- 在宅訓練に対応しているか
- 月1回の通所や、家庭訪問などの条件
検索のヒント
- 「就労移行支援 IT ◯◯市」
- 「就労移行支援 プログラミング 在宅」
- 「就労移行支援 Webデザイン ◯◯県」
ポイント: この段階では細かく比較しなくて大丈夫。気になる事業所を5〜10カ所くらいざっくりメモするイメージです。
STEP3:Webサイトから「ITにどれくらい強そうか」をざっくりチェックする
全部見学に行くのは大変なので、まずはWebサイト情報でふるいにかけます。「サイトがオシャレ=ITに強い」ではないことに注意しましょう。
チェックポイント
- 訓練内容の具体性:言語名・ツール名、どんな作品を作るかが書いてあるか
- 就職実績の詳しさ:「就職率◯%」だけでなく、職種の内訳や事例が載っているか
- 利用者の声:卒業生にIT就職した人の事例が含まれているか
- 在宅訓練への対応:リモートワークを目指す人向けの説明があるか
ポイント: 完璧な判定は不要です。「なんとなくITに力を入れていそう」「自分に合いそう」と思った事業所を3〜5カ所に絞り込むのがゴールです。
STEP4:見学・体験で「質問」と「その場の雰囲気」を確認する
見学・体験は複数行ってOKです。「見学したから申し込まないといけない」ということもありません。比較・相談のための場だと考えましょう。
最低限これだけは聞きたい質問
- 未経験からITスキルを学ぶ場合の流れ・期間
- 実際にPCに触れている時間が、週どれくらいあるか
- IT企業への就職実績(直近1年、職種の内訳)
- 在宅訓練やハイブリッド利用の実績
- ポートフォリオ作成のサポート内容
質問以外に見てほしいポイント
- 訓練中の利用者の表情(ピリピリしていないか、リラックスしているか)
- スタッフの話し方・説明の分かりやすさ
- PCや椅子・机など、訓練環境の雰囲気
- 「自分がここに通っている姿」をイメージできるか
ポイント: 帰ってから、「良かった点」「気になった点」を一言ずつメモしておくと、後で比較しやすくなります。完璧な質問リストは不要。気になることを素直に聞けばOKです。
STEP5:人気よりも「今の自分に合う」事業所を1〜2カ所選ぶ
見学が終わったら、最終決定です。重要なのは、「一番人気=自分に合う」とは限らないということ。今の自分の状態と目標に合っているかで判断しましょう。
比較の4つの軸
- 通いやすさ:時間、在宅の可否、日数の柔軟さ
- 訓練内容:学びたいITスキル、ポートフォリオ作成、実習の有無
- サポート体制:面談頻度、体調不良時のフォロー、就活サポート
- 雰囲気・相性:スタッフや利用者との相性、通うイメージが湧くか
簡易比較表(◎○△で評価)
候補事業所の比較(◎○△で評価してみましょう)
| 評価項目 | A事業所 | B事業所 | C事業所 |
|---|---|---|---|
| 通いやすさ | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ |
| 訓練内容 | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ |
| サポート体制 | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ |
| 雰囲気・相性 | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ | ◎ ○ △ |
| 総合判断 | ここに◎○△ | ここに◎○△ | ここに◎○△ |
ポイント: 100点満点の事業所を探す必要はありません。70〜80点くらいで「ここなら続けられそう」と思える所が目安です。通ってみて合わないと思ったら、事業所を変える選択肢もあります。
次の一歩:まず1カ所、見学を申し込んでみましょう
5ステップを読んで「やることが多い」と感じたかもしれません。でも大丈夫です。一度に全部やる必要はありません。
まずは今日、以下のどれか1つだけやってみてください。
- スマホのメモ帳に「ITで働きたい理由」を1行だけ書いてみる
- 「就労移行支援 IT ◯◯市」で検索して、1カ所だけWebサイトを見てみる
- 気になった事業所に、見学の問い合わせメールを送ってみる
小さな一歩が、未来の働き方を変える大きな変化につながります。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
「『完璧に準備してから見学に行こう』と考える方が多いのですが、見学は情報収集の場です。質問が思いつかなくても、『雰囲気を見に来ました』だけでも全然OKです。むしろ複数の事業所を見て比較することで、自分の希望が明確になっていきます。まずは気軽に、一歩を踏み出してみてください」
ありがちな失敗パターンと回避策
ここでは、就労移行支援選びでよくある失敗パターンと、その回避策を紹介します。これを知っておくことで、同じ失敗を避けられます。
「ITっぽい雰囲気」だけで選んでしまう
失敗パターン
Webサイトがおしゃれで、写真にMacやデュアルディスプレイが写っていて、「IT特化!」とアピールしている事業所を選んだが、実際に通ってみると、訓練内容はOfficeソフトの使い方が中心で、プログラミングは週1回の講義を聞くだけだった。
なぜ起こるか
見た目の「IT感」と、実際の訓練内容・就職実績は必ずしも一致しません。施設の雰囲気づくりには力を入れているが、カリキュラムの更新や専門スタッフの確保は十分でない事業所もあります。
回避策
- Webサイトの雰囲気だけでなく、カリキュラムの具体性を確認する
- 見学時に「実際に卒業生が作ったポートフォリオを見せてください」と依頼する
- 就職実績の職種内訳を確認する(プログラマーとして何名就職したか)
- 体験利用で、実際の訓練に参加してみる
通所負担を甘く見て続けられない
失敗パターン
「週5日通所できます」と意気込んで利用を開始したが、実際には通勤だけで疲れてしまい、訓練に集中できない。体調を崩して欠席が増え、結局退所してしまった。
なぜ起こるか
離職期間が長いと、「毎日決まった時間に起きて、決まった場所に行く」という習慣自体が失われています。「やる気」だけでは、体力・メンタルが追いつかないことがあります。
回避策
- 最初は週2〜3日、短時間(午前のみなど)から始めることを前提に事業所を選ぶ
- 通所時間は片道1時間以内を目安にする(それ以上は通所負担が大きい)
- 在宅訓練やハイブリッド型の選択肢がある事業所を選ぶ
- 「通えなくなったらどうなるか」を事前に確認する(柔軟に対応してもらえるか)
通所負担チェックリスト
通所負担セルフチェック
- 週2〜3日、短時間(午前のみなど)から始められる事業所を選ぶ
- 在宅訓練、またはハイブリッド型(通所+在宅)の事業所を検討
- 通所時間が片道1時間以内の事業所に絞る
「とりあえず申し込む」で、目標が曖昧なまま訓練を続ける
失敗パターン
「就労移行支援を使えば何とかなるだろう」と、深く考えずに利用開始。訓練を受けているうちに「自分は何がしたいのか」が分からなくなり、モチベーションが下がってしまった。
なぜ起こるか
「IT業界で働きたい」という漠然とした目標だけでは、訓練が辛いときに「なぜ自分はここにいるのか」を見失いやすくなります。
回避策
- STEP1で整理した「なぜITで働きたいのか」「どんな働き方を実現したいのか」を、訓練開始後も定期的に見返す
- 個別支援計画で、具体的な目標(3ヶ月後にどんなスキルを身につけるか、など)を設定する
- 定期的にスタッフと面談し、目標の見直しや軌道修正を行う
- 「うまくいかなくても、方向転換できる」という柔軟性を持つ(IT以外の選択肢も視野に入れる)
不安が強い人向けQ&A(よくある質問)
Q1:IT未経験・パソコン初心者でも、本当に就職できますか?
A:はい、可能です。就労移行支援では、タイピングやマウス操作など、PCの基礎から段階的に学べます。実際に、「パソコンをほとんど触ったことがない」状態から始めて、1〜2年後にはWebデザイナーやプログラマーとして就職した事例は多数あります。重要なのは、焦らず基礎から積み上げることです。
パソコン基礎学習について詳しく知りたい方は、就労移行支援でパソコン学習は学べる?学習内容・向き不向き・就職先まで完全解説をご参照ください。
Q2:プログラミングが難しくてついていけなかったらどうしますか?
A:プログラミングが合わないと感じたら、別の職種(ITサポート、テスター、Webサイト運用など)に方向転換することも可能です。就労移行支援では、複数のスキルを試しながら、自分に合った職種を見つけられます。「プログラミングができなければIT就職できない」わけではありません。また、万一IT職種全体が合わないと感じた場合でも、一般事務など他の選択肢を検討できます。
Q3:週5日通所する自信がないのですが、利用できますか?
A:はい、利用できます。多くの事業所では、週2〜3日、午前のみなど、柔軟な通所日数・時間からスタートできます。体調や状況に合わせて徐々に日数を増やし、最終的に週5日を目指すというステップが一般的です。また、在宅訓練やハイブリッド型を選べる事業所もあります。
Q4:障害者手帳がないと就労移行支援は利用できませんか?
A:手帳がなくても利用可能です。医師の診断書や意見書に基づき、自治体が「就労支援が必要」と判断すれば、受給者証が発行されます。精神科や心療内科の診断書でも申請できます。ただし、最終的な可否や条件はお住まいの自治体が判断しますので、事前に相談窓口で確認することをお勧めします。
Q5:利用料金はいくらかかりますか?
A:世帯の所得に応じて、障害福祉サービス全体で月額0円〜37,200円の範囲で負担上限が設定されています。就労移行支援を利用する場合、多くの方は0円または9,300円の区分になりますが、世帯の収入状況によってはそれ以上となるケースもあります。
実際には、自己負担0円〜数千円程度で利用している方が多いとされています。具体的な負担額は、お住まいの自治体や相談支援専門員に確認してください。受給者証の仕組みについては、別記事でも詳しく解説しています。
Q6:就労移行支援を利用すると、必ず就職できますか?
A:就職を保証するものではありませんが、適切な訓練とサポートを受ければ、就職の可能性は大きく高まります。事業所が公表している就職率として、**50〜70%前後と案内されているケースもありますが、実際の数値は事業所や年度によって大きく異なります。**気になる事業所があれば、最新の実績を直接確認してみてください。
ただし、「就職すること」だけが目標ではなく、「自分に合った働き方で、長く働き続けること」が本当のゴールです。
Q7:年齢制限はありますか? 40代でも利用できますか?
A:原則として65歳未満であれば利用可能です。40代の利用者も多く、「これまでの経験を活かしながら、ITスキルを追加で身につける」という形でキャリアチェンジに成功している事例もあります。
Q8:見学・体験は何カ所行くべきですか?
A:最低でも2〜3カ所は見学することをお勧めします。1カ所だけだと比較ができず、「ここが自分に合っているか」の判断が難しくなります。見学は無料ですし、「見学したから必ず申し込まないといけない」ということもありません。
Q9:在宅訓練だけで、IT就職は可能ですか?
A:はい、可能です。特にリモートワークを前提とした職種(プログラマー、Webデザイナーなど)を目指す場合、在宅訓練の経験はむしろプラスになります。ただし、完全在宅の場合は、自己管理能力や孤立感への対処が重要になるため、定期的なオンライン面談やコミュニケーションツールの活用が必須です。
Q10:就職後のサポートはどのくらい受けられますか?
A:就労移行支援を経て就職した場合、原則として就職後6ヶ月間は事業所による職場定着支援が受けられます。職場での困りごとの相談、企業への働きかけ、必要に応じた通院同行などのサポートがあります。
その後も支援が必要な場合は、別制度の「就労定着支援」を利用することで、就職後3年6ヶ月目まで長期的なサポートを受けられる場合もあります(利用条件や期間は自治体や事業所によって異なります)。定着支援の手厚さも、事業所選びの重要なポイントです。
Q11:受給者証はどうやって取得すればいいですか?
A:受給者証の取得は、おおむね以下のステップで進みます。
- 相談窓口に連絡:お住まいの市区町村の障害福祉課、または相談支援事業所に相談
- 必要書類の準備:申請書、サービス等利用計画案、医師の意見書(場合による)
- 申請・審査:自治体が必要性を判断し、受給者証を発行(通常1〜2ヶ月程度)
詳しい手順や必要書類については、別記事で詳しく解説していますので、そちらをご参照ください。
Q12:プログラミング以外に、どんなITスキルが学べますか?
A:就労移行支援で学べるITスキルは、プログラミングだけではありません。以下のような多様なスキルを学べる事業所があります。
- デザイン系:Photoshop、Illustrator、Webデザイン
- マーケティング系:SEO、Web広告、SNS運用、アクセス解析
- 動画系:動画編集、YouTube運用
- 基礎系:Word、Excel、PowerPoint、タイピング
- 最新技術:生成AI活用、データ分析
それぞれのスキルについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
まとめ:IT就職への5ステップと次の一歩
未経験からIT就職を目指す場合、就労移行支援は「技術習得」「就職活動サポート」「定着支援」の3つを包括的に得られる有効な選択肢です。この記事で解説した5ステップに沿って事業所を選ぶことで、失敗のリスクを大きく減らせます。
IT就職のための5ステップ(おさらい)
- 「ITで働きたい理由」と希望する働き方を言語化する:なぜITなのか、どんな働き方を実現したいのかを整理する
- 自宅周辺〜オンラインで通える範囲の事業所をリストアップ:5〜10カ所程度をピックアップ
- Web情報で「IT向け度」をざっくり判定する:訓練内容の具体性、就職実績の詳しさで絞り込む
- 見学・体験で確認すべき「10の質問」:実際の訓練内容、サポート体制、就職実績を確認
- 候補を比較して「今の自分に合う1〜2カ所」を決める:人気ではなく、自分の状態・目標に合っているかで判断
次にやるべきこと
- STEP1のワークシートを使って、自分の希望を整理する:紙やスマホのメモに書き出してみましょう
- 気になる事業所2〜3カ所に見学を申し込む:電話またはWebフォームで気軽に問い合わせてOK
- 受給者証について調べる:利用料金や申請方法について、別記事で詳しく確認しましょう
- 学びたいスキルの詳細を確認する:自分が興味のある分野(Webデザイン、マーケティング、動画編集など)について、具体的な学習内容や事業所選びのポイントを確認しましょう
IT就職への第一歩は、「完璧に準備してから」ではなく、「まず見学に行ってみること」です。見学は無料ですし、見学したからといって必ず申し込む必要もありません。まずは気軽に、実際の訓練の様子を見てみましょう。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
「『自分にできるかどうか』で悩む方がとても多いのですが、大切なのは『やってみたいかどうか』です。やってみたい気持ちがあれば、私たちは全力でサポートします。まずは見学だけでも、一歩を踏み出してみてください。合わないと感じたら、別の事業所を探す選択肢もあります。完璧を目指さず、柔軟に進んでいきましょう」
出典・一次情報
監修者情報
この記事の監修者
市原 早映(いちはら さえ)
2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。

