この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。
「就職率95%!」「就職実績300名突破!」
就労移行支援の事業所サイトを見ていると、こうした数字が目に飛び込んできます。
でも、こんな不安はありませんか?
- 「就職率95%って本当に信用できるの?」
- 「就職実績300名と書いてあるけど、これって今の実力なの?」
- 「定着率が大事と聞くけど、どのくらいなら高いと言えるの?」
- 「見学のとき、何を質問すればいいか分からない…」
この記事では、就労移行支援の「就職実績」を正しく見抜くための方法を、就職率・定着率・給与実績の3つの軸から徹底解説します。
特に重要なのは、「就職率だけで選ぶと失敗する」という事実です。 数字の裏側にある計算方法、集計期間、母数を理解することで、本当に自分に合った事業所を見極められるようになります。
見学でそのまま使える質問テンプレートと、印刷して使えるチェックリストも用意しました。
※就労移行支援の基本的な仕組みや利用条件については、[就労移行支援とは?基礎知識ガイド]の記事で詳しく解説しています。
この記事で分かること
- 就労移行支援の就職実績(就職率・定着率・給与実績)の正しい見方
- 「就職率◯%」の数字にだまされないための3つのチェックポイント
- 定着率の目安(6ヶ月・1年・3年)と、確認すべき支援内容
- 職種・雇用形態・給与の内訳を確認する方法
- 見学・相談でそのまま使える質問テンプレート
- 複数の事業所を比較するためのチェックリスト
まず結論:就職実績は3つの軸で見る
就労移行支援の就職実績を見るとき、最も重要なのは「就職率だけで判断しない」ことです。
就職実績を正しく評価するための3つの軸:
- 就職率の中身(計算方法・集計期間・母数)を確認する:同じ「就職率95%」でも、分母・分子の定義や集計期間で意味が大きく変わります
- 定着率(6ヶ月・1年・3年)を必ずチェックする:就職しても短期間で辞めてしまっては意味がありません。定着率こそが「就職の質」を表す最重要指標です
- 職種・雇用形態・給与の内訳を確認する:希望する職種での実績があるか、給与水準はどのくらいか、正社員とパート・アルバイトの内訳はどうかを見ます
これら3つを総合的に見ることで、数字の印象操作に惑わされず、本当に自分に合った事業所を選べるようになります。
就労移行支援の「就職実績」はどう見るべき?まず全体像を整理
就労移行支援の事業所を選ぶとき、多くの人が最初に注目するのが「就職実績」です。でも、「就職実績」という言葉は、実は複数の指標をまとめた表現で、その中身を理解しないと正しい判断ができません。
就職実績を構成する主な指標:
- 就職率:利用者のうち何%が就職できたか
- 就職者数:実際に就職した人数(累計 or 最新年度)
- 定着率:就職後、どのくらいの期間働き続けているか
- 職種・雇用形態の内訳:どんな仕事に、どんな雇用形態で就職したか
- 給与水準:初任給や平均給与、給与の中央値
- 就職先企業名:実際にどんな企業に就職しているか
事業所のサイトを見ると、「就職率95%!」「就職者数300名突破!」といった数字が大きく表示されています。これらの数字は確かに目安にはなりますが、その数字がどのように計算されているか、どの期間の実績か、何人を対象にした数字かを確認しないと、実態とのギャップに驚くことになります。
例えば、「就職率95%」と書いてあっても、以下のようなケースが考えられます:
- 過去10年間の累計で計算していて、最新年度の実績は60%
- 対象人数が5人で、そのうち1人が途中で辞めた結果、残り4人のうち4人が就職して100%
- 週1回のアルバイトも「就職」にカウントしている
- 1ヶ月で辞めた人も「就職成功」として計算している
これらの違いを見抜くために、この記事では具体的なチェックポイントと質問テンプレートを紹介していきます。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
実際の支援現場では、「就職率が高い=良い事業所」とは限りません。就職率を上げるために、本人の希望とは異なる職種を勧めたり、短時間のアルバイトでも「就職」としてカウントしたりする事業所も残念ながら存在します。大切なのは、「あなたが働きたい職種で、納得できる条件で、長く働き続けられる支援をしてくれるか」です。数字の裏側まで確認する習慣をつけましょう。
なぜ「就職率◯%」だけで選ぶと失敗するのか?
「就職率95%」と聞くと、「この事業所に通えば、ほぼ確実に就職できる!」と期待してしまいます。でも、実際には就職率だけで事業所を選ぶと、こんな失敗につながります。
よくある失敗パターン3つ:
就職率だけでは分からない「就職の質」とは?
就職実績を見るとき、「就職できたかどうか」だけでなく、「どんな就職だったか」という「就職の質」を確認することが重要です。
就職の質を測る5つの指標:
- 定着率:就職後、6ヶ月・1年・3年と働き続けられているか
- 職種:希望する職種(事務・IT・軽作業・サービス職など)での就職実績があるか
- 雇用形態:正社員・契約社員・パート・アルバイトの内訳
- 給与水準:初任給や平均給与、給与の中央値はどのくらいか
- 就職先企業:どんな規模・業種の企業に就職しているか
例えば、以下の2つの事業所を比較してみましょう。
事業所A:
- 就職率:95%
- 定着率(1年):50%
- 職種:軽作業が80%、事務職が20%
- 平均給与:月8万円
事業所B:
- 就職率:70%
- 定着率(1年):85%
- 職種:事務職が60%、IT職が30%、その他が10%
- 平均給与:月16万円
就職率だけを見れば事業所Aの方が良さそうですが、定着率、職種、給与を総合的に見ると、事業所Bの方が「質の高い就職」をサポートしていることが分かります。
就職実績の数字にだまされない!3つの必須チェックポイント
就職率などの数字を見るとき、以下の3つのポイントを必ず確認しましょう。これだけで、数字の印象操作に惑わされずに済みます。
3つの必須チェックポイント:
- 計算方法(分母・分子の定義):何を分母にして、何を分子にしているか
- 集計期間:いつの実績か(累計 or 最新年度 or 好調期のみ)
- 母数(対象人数):何人を対象にした数字か
これらが明示されていない事業所は、数字だけでは実態が分かりにくく、利用者から見ると透明性に不安が残るかもしれません。見学の際に、計算方法や対象期間について具体的に質問してみると安心です。
一方で、これらを丁寧に開示している事業所は、数字の根拠をきちんと説明しようとする姿勢がうかがえます。
ポイント① 計算方法の違いで「就職率」は大きく変わる
同じ「就職率」という言葉でも、計算方法によって数字が大きく変わります。最も重要なのは、「分母」と「分子」の定義です。
同じ事業所でも、計算方法によって70%から100%まで変わります。
就職率の計算パターン3つ:
| パターン | 分子 | 分母 | 計算例 | 就職率 |
|---|---|---|---|---|
| パターンA (最も厳しい) |
就職した人数 | 利用開始した全員 (途中退所者も含む) |
20人が利用開始 途中で5人が退所 残り15人のうち14人が就職 |
70% (14÷20) |
| パターンB (中程度) |
就職した人数 | 訓練を修了した人数 (途中退所者は除外) |
20人が利用開始 途中で5人が退所 残り15人のうち14人が就職 |
93% (14÷15) |
| パターンC (最も甘い) |
就職した人数 | 就職活動を開始した人数のみ | 20人が利用開始 5人が退所、10人はまだ訓練中 5人が就活開始して5人全員就職 |
100% (5÷5) |
確認すべき3点:
- 分子は何か:就職した人数だけか、就職活動を開始した人数のみか
- 分母は何か:利用開始した全員か、訓練を修了した人数のみか、就職活動を開始した人数のみか
- 途中退所者の扱い:途中で辞めた人を分母に含めているか、除外しているか
利用開始した全員を分母にするパターンAは、途中退所者も含めて見えるため、より厳しめで、実態に近い数字になりやすい計算方法です。見学のときは、「就職率の計算方法を教えてください(分母・分子は何ですか?)」と必ず聞きましょう。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
多くの事業所が採用しているのはパターンBです。途中退所者を除外することで、数字が良く見えるからです。ただし、途中退所が多い事業所は、それ自体が問題のサインかもしれません。「途中退所者は年間何人くらいいますか?」「その理由は何ですか?」と質問することで、事業所の本当の姿が見えてきます。
ポイント② 集計期間で印象が変わる:最新年度を必ずチェック
「就職者数300名突破!」という数字を見ると、すごく実績がある事業所のように感じます。でも、これが開所以来10年間の累計だったらどうでしょうか?
集計期間による印象の違い:
| 集計期間 | 表示される数字 | 実際の意味 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 累計10年間 | 300名就職 | 年平均30名 | 今の実力とは限らない |
| 直近1年間 | 15名就職 | 年間15名 | 今の支援体制での成果 |
| 好調期(3年前)のみ | 80名就職 | 当時は年間80名 | 今は違う可能性が高い |
累計実績が大きくても、最近の実績が伴っていなければ、今の支援体制やノウハウが十分でない可能性があります。逆に、開所したばかりの事業所は累計実績が少なくても、最新年度の実績が良好なこともあります。
必ず聞きたい3つの期間:
- 最新年度(直近1年)の実績:今の支援体制での成果
- 直近3年の推移:安定して成果を出しているか、それとも年によってバラつきがあるか
- 月別または四半期別の内訳:特定の時期に集中していないか
見学のときは、「この数字は累計ですか?それとも最新年度ですか?」「直近3年の推移を教えてください」と質問しましょう。
ポイント③ 母数(対象人数)で信頼性が変わる
「就職率100%!」と聞くと素晴らしく感じますが、対象人数が2人だったらどうでしょうか?統計学的には、母数が少ないほど数字のブレが大きくなります。
母数による信頼性の違い:
| ケース | 対象人数(母数) | 就職した人数 | 就職率 | 信頼性 |
|---|---|---|---|---|
| ケースA | 2人 | 2人 | 100% | 低い |
| ケースB | 10人 | 9人 | 90% | 中程度 |
| ケースC | 50人 | 45人 | 90% | 高い |
母数を確認するときの目安:
- 年間10人以上:最低限の信頼性
- 年間30人以上:ある程度の信頼性
- 年間50人以上:高い信頼性
小規模な事業所では母数が少ないこともありますが、その場合は「過去3年間の累計」で評価するなど、工夫して確認しましょう。
見学のときは、「この就職率は、何人を対象にした数字ですか?」「年間の利用者数は何人くらいですか?」と質問します。
ここまでのまとめ:就職率を正しく見るための3つのポイント
- ①計算方法(分母・分子)を確認する
- ②集計期間(累計か最新年度か)を確認する
- ③母数(対象人数)を確認する
この3つを押さえるだけで、数字の印象操作に惑わされず、事業所の実力を正しく評価できるようになります。次は、就職率よりもさらに重要な「定着率」について見ていきましょう。
最重要指標「定着率」の正しい確認方法
就職実績を見るとき、就職率よりもさらに重要なのが「定着率」です。定着率とは、就職した人がどのくらいの期間働き続けているかを示す指標で、「就職の質」を最も正確に表す数字です。
なぜなら、どんなに就職率が高くても、1ヶ月で辞めてしまっては意味がないからです。定着率が高い事業所は、就職後のサポートが充実していて、利用者が長く安心して働ける環境を整えている証拠です。
定着率の計算方法:
- 分子:就職後、特定の期間(6ヶ月・1年・3年など)継続して働いている人数
- 分母:就職した人数
例:20人が就職、1年後も働いているのは17人 → 定着率85%
定着率を確認するときは、必ず「6ヶ月」「1年」「3年」の3つの期間でチェックしましょう。それぞれの期間が、異なる意味を持っています。
目安は「6ヶ月・1年・3年」:それぞれ何を意味する?
定着率は、期間によって意味が大きく変わります。以下の3つの期間を必ず確認しましょう。
6ヶ月定着率:初期適応の壁
就職後6ヶ月は、新しい環境への適応期間です。業務内容、人間関係、通勤、生活リズムなど、すべてが新しく、ストレスがかかります。6ヶ月定着率が低い場合、以下の可能性があります:
- 就職前の訓練が不十分で、実務についていけない
- 就職後のサポート(定着支援)が不足している
- 本人の希望とミスマッチな職種・企業に就職させている
**一つの目安として、6ヶ月定着率がおおむね75%前後だと安心材料になります。**ただし、障害特性や地域、事業所の規模や開設年数によっても数字は変わるため、定着率だけで評価せず、支援内容や雰囲気もあわせて確認しましょう。
1年定着率:中期安定の壁
就職後1年は、業務に慣れ、職場に定着できるかどうかの分岐点です。6ヶ月を乗り越えても、1年以内に体調を崩したり、人間関係のトラブルで辞めてしまう人もいます。1年定着率が高い事業所は、定着支援が手厚く、利用者が安心して働ける環境を作っています。
**一つの目安として、1年定着率がおおむね70%前後だと安心材料になります。**ただし、これも事業所の特性や利用者の状況によって変わるため、数字だけでなく、どんな支援を行っているかを確認することが重要です。
3年定着率:長期継続の壁
就職後3年継続できれば、その職場に完全に定着できたと言えます。3年定着率が高い事業所は、利用者のキャリア形成まで視野に入れた支援をしている証拠です。ただし、3年定着率を公開している事業所は少ないので、見学のときに質問しましょう。
**一つの目安として、3年定着率がおおむね60%前後だと安心材料になります。**ただし、3年の間には転職やキャリアアップなど、前向きな理由での退職もあるため、数字だけでなく、離職理由も確認することが大切です。
| 期間 | 意味する壁 | 一つの目安 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 6ヶ月定着率 | 初期適応の壁 | おおむね75%前後 | 新環境への適応、業務の習得、初期サポートの質 |
| 1年定着率 | 中期安定の壁 | おおむね70%前後 | 職場への定着、人間関係、体調管理、継続的なサポート |
| 3年定着率 | 長期継続の壁 | おおむね60%前後 | キャリア形成、長期的な働き方、転職・昇進などの前向きな離職も含む |
※障害特性や地域、事業所の規模や開設年数によっても数字は変わるため、定着率だけで評価せず、支援内容や雰囲気もあわせて確認しましょう。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
私が支援してきた利用者の中で、就職後に最も苦労するのは「最初の3ヶ月」と「1年目の壁」です。最初の3ヶ月は、業務を覚えるのに精一杯で、疲労が蓄積します。1年目は、業務には慣れたものの、人間関係や体調管理で悩む人が多いです。だからこそ、定着支援が充実している事業所を選ぶことが、長く働き続けるための最大のポイントです。
定着率を下げる主な要因と、それを防ぐ支援体制
定着率が低い事業所は、利用者が就職後に辞めてしまう理由を分析し、それに対応する支援体制を整えていない可能性があります。
離職の主な理由と対応策:
| 離職理由 | 事業所の対応策(確認すべき支援内容) |
|---|---|
| 業務についていけない | ・就職前の実践的なスキル訓練 ・職場での業務マニュアル作成支援 ・初期の頻繁な職場訪問と相談 |
| 体調が悪化した | ・就職後の健康管理サポート ・通院時間の確保について企業との調整 ・服薬管理・睡眠リズムの相談 |
| 人間関係のトラブル | ・コミュニケーションスキルの訓練 ・職場での困りごとの早期発見と対応 ・必要に応じて企業への仲介 |
| 給与・待遇に不満 | ・就職前の条件面の十分なすり合わせ ・昇給・キャリアアップの可能性の確認 ・転職支援(必要な場合) |
| 通勤が負担 | ・通勤訓練の実施 ・在宅勤務・時差出勤の交渉 ・通勤ルートの最適化 |
離職理由を分析し、それに対応する支援体制を整えている事業所は、定着率が高い傾向があります。見学のときは、「離職される方の主な理由は何ですか?」「それに対してどんな対応をしていますか?」と質問しましょう。
定着支援・再就職支援の具体的な中身をチェック
定着率を高めるために、就職後のフォローとして、**定着支援(就労定着支援など、自治体や制度により名称が異なります)**を行っていることが多いです。これは、就職後も一定期間、職場での困りごとを相談できる仕組みです。
※定着支援の名称や利用できる期間は、制度改正や自治体の運用によって変わることがあります。詳しくは、事業所や自治体窓口で最新情報を確認してください。
就職定着支援の標準的な流れ:
見学のときは、「定着支援の具体的な内容を教えてください」「就職後、どのくらいの頻度で相談できますか?」と質問しましょう。
職種・給与実績のチェックポイント:就職の「質」を見抜く
就職率や定着率が高くても、「希望する職種で働けるか」「生活できる給与がもらえるか」が重要です。ここでは、職種と給与の実績を確認する方法を解説します。
希望する職種での就職実績があるか?
就労移行支援では、幅広い職種への就職をサポートしていますが、事業所によって得意な職種が大きく異なります。
主な職種カテゴリと特徴:
| 職種カテゴリ | 具体例 | 必要なスキル |
|---|---|---|
| 事務職 | 一般事務、データ入力、経理補助 | パソコンスキル(Word、Excel等) |
| IT職 | プログラマー、Webデザイナー、システムエンジニア | 専門スキル(プログラミング、デザインツール等) |
| 軽作業 | 製造補助、清掃、物流 | 特別なスキルは不要だが、体力が必要 |
| サービス職 | 接客、販売、飲食 | コミュニケーション能力 |
| 専門職 | 経理、デザイン、翻訳 | 専門資格やスキル |
事業所のサイトに「就職実績」として職種が記載されている場合は、内訳を確認しましょう。もし希望する職種の実績がほとんどない場合、その事業所ではその職種へのノウハウや企業とのつながりが、これから蓄積していく段階かもしれません。
- 「事務職での就職実績は、直近1年で何名ですか?」
- 「IT職に強い事業所と聞きましたが、具体的にどんな職種・企業への実績がありますか?」
- 「私は◯◯職を希望していますが、過去に同じ職種に就職した方はいますか?」
- 「私の希望職種の実績が少ない場合、どんなサポートをしてもらえますか?」
見学のときは、自分が希望する職種での実績が十分にあるかを必ず確認しましょう。実績が少ない場合は、他の事業所も検討することをおすすめします。
「平均給与」ではなく「給与の中央値」を聞く理由
給与実績を見るとき、多くの人が「平均給与」に注目します。でも、平均給与だけを見ると、実態を見誤る可能性があります。
平均値と中央値の違い:
- 平均値:全員の給与を足して、人数で割った数字
- 中央値:全員を給与順に並べたときの真ん中の人の給与
具体例:10人の給与実績
| 順位 | 給与(月額) |
|---|---|
| 1位 | 30万円 |
| 2位 | 25万円 |
| 3位 | 18万円 |
| 4位 | 16万円 |
| 5位 | 15万円(中央値) |
| 6位 | 14万円 |
| 7位 | 12万円 |
| 8位 | 10万円 |
| 9位 | 8万円 |
| 10位 | 6万円 |
この例では、平均値と中央値はほぼ同じですが、もし1位の人が月50万円だったらどうでしょうか?
- 平均値:(50+25+18+16+15+14+12+10+8+6)÷ 10 = 17.4万円
- 中央値:5位と6位の間 = 14.5万円(変わらず)
平均値は17.4万円に上がりますが、実際には10人中9人が18万円以下です。つまり、平均値だけを見ると、一部の高給与者に引っ張られて、実態より高く見えるのです。
給与を確認するときの質問例:
- 「平均給与だけでなく、中央値も教えてください」
- 「給与の分布(最低・中央・最高)を教えてください」
- 「正社員とパート・アルバイトの給与の内訳を教えてください」
- 「初任給の目安と、昇給の可能性について教えてください」
見学のときは、平均給与だけでなく、中央値や給与の分布を必ず確認しましょう。
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
給与の話は、利用者にとって非常にデリケートですが、生活を成り立たせるためには避けて通れません。事業所によっては、高い給与実績を前面に出しながら、実際にはその条件で働ける人はごく一部、ということもあります。遠慮せず、「自分が希望する条件で働けるのか」を具体的に確認してください。
ここまでのまとめ:就職の質を見抜く3つのポイント
- ①定着率(6ヶ月・1年・3年)と定着支援の内容を確認する
- ②希望職種での実績があるか、職種の内訳を確認する
- ③平均給与ではなく中央値や給与の分布を確認する
これらを押さえることで、「就職率は高いけど、すぐ辞めてしまう」「希望と違う職種ばかり」「給与が低すぎる」といったミスマッチを防げます。次は、見学で実際に使える質問テンプレートを紹介します。
見学・相談でそのまま使える!質問テンプレート集
ここまで、就職実績を見抜くためのポイントを解説してきました。でも、実際に見学や相談に行ったとき、「何をどう質問すればいいか分からない…」と悩む人は多いです。
そこで、見学や相談でそのまま使える質問テンプレートを用意しました。事前にメモしておくか、スマホに保存しておくと便利です。
質問するときの3つのコツ:
- 遠慮しない:質問することは、あなたの権利です。丁寧に質問すれば、事業所も誠実に答えてくれます
- メモを取る:複数の事業所を見学する場合、後で比較しやすいようにメモを取りましょう
- 回答が曖昧な場合は追加質問する:「ケースバイケース」「人によって違う」という回答だけで終わらせず、具体例を聞きましょう
- 「就職率と定着率(6ヶ月・1年・3年)を教えてください」
- 「この数字は、累計ですか?それとも最新年度(直近1年)ですか?」
- 「就職率の計算方法を教えてください(分母・分子は何ですか?)」
- 「対象人数は何人ですか?」
- 「途中退所される方は、年間何人くらいいますか?その理由は何ですか?」
- 「定着率を下げる主な理由は何ですか?それに対してどんな対応をしていますか?」
- 「直近3年の就職率・定着率の推移を教えてください」
- 数字を具体的に答えてくれる
- 計算方法を明確に説明してくれる
- 定着率を下げる理由と対応策を具体的に説明してくれる
- 数字を曖昧にする(例:「だいたい8割くらいです」)
- 累計か最新年度かを明示しない
- 途中退所者について触れたがらない
- 「職種別の就職実績(事務・IT・軽作業など)を教えてください」
- 「正社員・契約社員・パート・アルバイトの内訳を教えてください」
- 「平均給与と中央値を教えてください」
- 「給与の分布(最低・中央・最高)を教えてください」
- 「私は◯◯職を希望していますが、過去に同じ職種に就職した方は何名いますか?」
- 「◯◯職の場合、初任給の目安と昇給の可能性について教えてください」
- 「週何日・1日何時間の勤務が多いですか?」
- 「在宅勤務・リモートワークでの就職実績はありますか?」
- 職種・雇用形態・給与の内訳を具体的に答えてくれる
- 希望職種での実績がある(直近1年で数名以上)
- 給与の中央値や分布も教えてくれる
- 職種の内訳を明示しない(例:「いろいろな職種があります」)
- 平均給与だけを強調し、中央値や分布を教えてくれない
- 希望職種での実績がほとんどない
- 「定着支援の期間と頻度を教えてください」
- 「就職後、どのくらいの頻度で相談できますか?」
- 「企業との連携はどの程度行いますか?」
- 「もし離職してしまった場合、再就職支援は受けられますか?」
- 「体調不良や人間関係のトラブルが起きたとき、どんな対応をしてもらえますか?」
- 「定着支援の期間を延長することは可能ですか?」
- 「就職後、通院時間の確保や勤務時間の調整について、企業と交渉してもらえますか?」
- 定着支援の具体的な流れを説明してくれる
- 企業との連携について具体例を出してくれる
- 離職後の再就職支援にも対応している
- 定着支援の内容が曖昧(例:「必要に応じて対応します」)
- 企業との連携がほとんどない
- 離職後の支援については触れたがらない
- 「離職される方の主な理由は何ですか?」
- 「過去にトラブルがあったケースについて、どんな対応をしましたか?」
- 「就職後、うまくいかなかったケースから何を学び、支援に活かしていますか?」
- 「離職理由を分析し、支援内容に反映していますか?」
- 「定着率が下がった時期はありますか?その理由と改善策を教えてください」
- 離職理由を具体的に分析している
- トラブル事例を包み隠さず話し、改善策を説明してくれる
- 失敗から学び、支援を改善している姿勢が見える
- 離職理由について曖昧にする(例:「人それぞれです」)
- トラブル事例について触れたがらない
- 「うちではトラブルはほとんどありません」と言い切る
- 「私は◯◯職で、△△という働き方(在宅勤務・時短勤務など)を希望していますが、実績はありますか?」
- 「私のような状況(例:対人不安が強い・体調が不安定など)の方で、うまく就職・定着できた事例はありますか?」
- 「私の希望に合った求人を見つけるために、どんなサポートをしてもらえますか?」
- 「希望職種のスキルを身につけるための訓練内容を教えてください」
- 「希望職種での就職が難しい場合、どんな代替案を提案してもらえますか?」
- 「就職先企業の選定は、どのように行いますか?(私の希望をどこまで尊重してもらえますか?)」
- 希望に近い事例を具体的に紹介してくれる
- 希望を実現するための具体的なサポート内容を説明してくれる
- 希望が難しい場合も、代替案を一緒に考えてくれる姿勢がある
- 「とりあえず就職してから考えましょう」と言われる
- 希望を聞かずに、事業所の都合で職種を決めようとする
- 「あなたの状態では◯◯は無理」と決めつける
各カテゴリには「基本の質問」「深掘りの質問」に加え、「✓こんな回答なら安心」「⚠️こんな回答は要注意」の判断基準も示しています。見学前にスマホに保存しておくと便利です。
印刷して使える!就職実績チェックリスト
見学や相談に行くとき、何をメモすればよいか分からない…という悩みを解消するために、印刷して使えるチェックリストを用意しました。
複数の事業所を見学する場合は、このチェックリストを使って比較すると、最終的な判断がしやすくなります。
| チェック項目 | 事業所A | 事業所B | 事業所C |
|---|---|---|---|
| 就職率 | |||
| 最新年度の就職率 | □ % | □ % | □ % |
| 計算方法(分母・分子)を明示している | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 対象人数(年間) | □ 人 | □ 人 | □ 人 |
| 定着率 | |||
| 6ヶ月定着率 | □ % | □ % | □ % |
| 1年定着率 | □ % | □ % | □ % |
| 3年定着率 | □ % | □ % | □ % |
| 定着率を下げる主な理由を分析している | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 職種・雇用形態 | |||
| 希望職種での実績がある | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 正社員の割合 | □ % | □ % | □ % |
| パート・アルバイトの割合 | □ % | □ % | □ % |
| 給与 | |||
| 平均給与 | □ 万円 | □ 万円 | □ 万円 |
| 給与の中央値 | □ 万円 | □ 万円 | □ 万円 |
| 給与の分布を教えてくれた | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 定着支援 | |||
| 定着支援の期間 | □ ヶ月 | □ ヶ月 | □ ヶ月 |
| 就職直後の訪問頻度 | □ 週 回 | □ 週 回 | □ 週 回 |
| 企業との連携を行っている | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 再就職支援も対応している | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ | □ はい □ いいえ |
| 総合評価 | |||
| 数字の透明性(きちんと開示している) | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 |
| 希望職種・働き方への対応 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 |
| 定着支援の充実度 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 |
| スタッフの対応(誠実さ・親身さ) | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 | □ 高 □ 中 □ 低 |
| メモ欄 | |||
| 気になった点・質問事項 | |||
使い方のポイント:
- 見学前に印刷(またはスマホに保存)しておく
- 見学中にメモを取る(分からない項目は質問する)
- 見学後、すぐに内容を整理する(記憶が新しいうちに)
- 複数の事業所を比較し、最終決定する
📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
このチェックリストは、実際に私が支援してきた利用者の方々と一緒に作り上げたものです。最初はメモを取らずに見学に行って、後で「あれ、何を聞いたっけ?」と混乱する方が多かったので、こうした形にまとめました。ぜひ活用してください。
まとめ:数字に振り回されず、「自分に合う」事業所を選ぶために
就労移行支援の就職実績を見るとき、最も大切なのは「数字だけで判断しない」ことです。
この記事の結論3つ:
- 就職率の裏側(計算方法・集計期間・母数)を必ず確認する:同じ「就職率95%」でも、中身が全く違う可能性があります
- 定着率こそが最重要指標:就職後、6ヶ月・1年・3年と働き続けられる支援体制があるかを確認しましょう
- 職種・給与の内訳で「就職の質」を見抜く:希望する職種での実績があるか、給与の中央値はどのくらいかをチェックしましょう
事業所を選ぶときは、以下の順序で進めることをおすすめします:
STEP1:自分が重視したいポイントを整理する
- 定着率を重視するか、職種を重視するか、給与を重視するか
- 希望する職種・働き方(在宅勤務・時短勤務など)を明確にする
- 100点満点の条件でなくても、どこまで譲れてどこは譲れないかを整理する
STEP2:事業所サイトで就職実績を事前チェック
- 就職率・定着率・職種・給与の実績を確認
- 数字が明示されていない事業所は、見学時に詳しく聞く準備をする
STEP3:見学・相談で質問テンプレを使って深掘りする
- この記事の質問テンプレートを活用
- 数字の計算方法、集計期間、母数を必ず確認
STEP4:チェックリストを使って複数事業所を比較し、最終決定する
- 印刷用チェックリストで比較
- 数字だけでなく、スタッフの対応や事業所の雰囲気も重要
- 自分の状態に近い事例があるかも確認する
次にやるべきこと:
- 気になる事業所のサイトで就職実績をチェックする
- 見学・相談を申し込む(この記事の質問テンプレートを持参)
- 複数の事業所を比較して、自分に合った事業所を選ぶ
就職実績の数字は、事業所を選ぶための重要な判断材料ですが、それがすべてではありません。最終的には、「あなたが安心して訓練を受けられる」「あなたの希望を尊重してくれる」事業所を選ぶことが、長く働き続けるための第一歩です。
よくある質問(FAQ)
Q1:就職率が高い事業所と定着率が高い事業所、どちらを優先すべきですか?
A:定着率を優先することをおすすめします。就職率が高くても、短期間で辞めてしまっては意味がありません。定着率が高い事業所は、就職後のサポートが充実していて、利用者が長く安心して働ける環境を整えている証拠です。ただし、両方高い事業所が理想です。
Q2:事業所のサイトに就職実績が載っていない場合、どうすればいいですか?
A:見学や相談のときに直接質問しましょう。もし、「お答えできません」「データがありません」と言われた場合は、数字の管理体制に不安が残るかもしれません。就職実績を開示していない事業所は、実績が低い場合や、まだデータの整備が追いついていない場合など、理由はさまざまです。いずれにしても、見学や相談の場で具体的な数字を確認しておくと安心です。
Q3:小規模な事業所は、大規模な事業所よりも就職実績が劣るのでしょうか?
A:必ずしもそうではありません。小規模な事業所でも、利用者一人ひとりに丁寧な支援を行い、高い定着率を実現しているところもあります。ただし、小規模な事業所は母数が少ないため、統計的な信頼性は低くなります。過去3年間の累計実績で評価するなど、工夫して確認しましょう。
Q4:「就職率100%」と謳っている事業所は信用できますか?
A:対象人数(母数)を必ず確認してください。対象人数が少ない場合(5人以下など)、たまたま全員就職できただけの可能性があります。また、計算方法(分母・分子)も確認しましょう。途中退所者を除外している、就職活動を開始した人数のみを分母にしているなど、有利な計算方法を採用している可能性があります。
Q5:定着率が低い事業所は、避けるべきですか?
A:定着率が低い理由を確認することが重要です。もし、「希望とミスマッチな職種に就職させている」「就職後のサポートが不足している」といった理由なら、他の事業所も検討した方がよいかもしれません。しかし、「利用者の希望で転職した」「キャリアアップのために退職した」といった前向きな理由であれば、必ずしも悪いとは言えません。見学時に具体的な離職理由を確認しましょう。
Q6:給与の平均値と中央値、どちらを重視すべきですか?
A:中央値を重視してください。平均値は、一部の高給与者に引っ張られて、実態より高く見える可能性があります。中央値は、全員を給与順に並べたときの真ん中の人の給与なので、より実態に近い数字です。
Q7:在宅勤務・リモートワークでの就職を希望していますが、実績はどう確認すればいいですか?
A:「在宅勤務・リモートワークでの就職実績は何件ありますか?」「どんな職種・企業への実績がありますか?」と質問しましょう。在宅勤務の実績が少ない事業所は、その分、在宅勤務求人の開拓やノウハウの蓄積がこれから、という段階かもしれません。希望が強い場合は、具体的な支援内容をよく確認しましょう。IT特化型の事業所は、在宅勤務の実績が豊富な傾向があります。
Q8:就職先企業名を教えてもらえないのですが、これは普通ですか?
A:個人情報保護の観点から、就職先企業名を公開していない事業所もあります。ただし、「どんな規模・業種の企業に就職しているか」「上場企業や大手企業への実績はあるか」といった情報は教えてもらえるはずです。全く情報を出さない事業所は、判断材料が少なくなりますので、見学時により詳しく質問してみましょう。
Q9:就職実績が良くても、訓練内容が自分に合わない場合はどうすればいいですか?
A:就職実績は重要ですが、それだけで選ぶと失敗します。訓練内容、スタッフの対応、事業所の雰囲気、通いやすさなども総合的に判断しましょう。就職実績が良くても、訓練内容が自分に合わなければ、途中で辞めてしまう可能性があります。
Q10:複数の事業所を見学する場合、何ヶ所くらい回るのが良いですか?
A:最低でも3ヶ所、できれば5ヶ所程度見学することをおすすめします。1〜2ヶ所だけでは比較できず、判断材料が不足します。ただし、見学しすぎると混乱するので、5〜7ヶ所程度に絞りましょう。この記事のチェックリストを使って比較すると、最終決定がしやすくなります。
出典・一次情報
監修者情報
この記事の監修者
市原 早映(いちはら さえ)
2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。

