この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。
「就労移行支援」「就労継続支援A型・B型」は名前が似ていて迷いやすいですよね。本記事では、専門家の立場で、目的・対象・働き方(収入)・期間の違いをやさしく解説します。記事の後半では、厚生労働省の一次情報にもとづく“最新の平均賃金・工賃(令和5年度)”と“自己負担の上限額”も掲載しています。
まずは要点(ここだけ読めばOK)
・就労移行支援:一般企業への就職と職場定着がゴール。事業所とは雇用契約を結びません(原則2年・必要時は延長可)。
・A型:事業所と雇用契約を結んで働きます。最低賃金以上の賃金が支払われ、継続就労が目的です。
・B型:雇用契約は結ばず、日中活動として生産活動に参加します。対価は「工賃」です(お給料ではありません)。
・自己負担は“1割+上限月額制”。多くの世帯では実質0円〜9,300円、上限は37,200円(通所の場合)。
制度の位置づけ(全体像)
最初に、3つのサービスの「役割」と「ゴール」を短く整理します。用語だけだと分かりにくいので、各サービスのイメージも添えて説明します。
就労移行支援(ゴール=一般就労)
・企業で働くことを目標に、訓練+就活支援+実習を組み合わせて進めます。
・事業所とは雇用契約は結びません(福祉サービスの利用契約です)。
・原則2年の中で、履歴書・面接・職場実習・定着準備までを計画的に行います。
就労継続支援A型(雇用契約で働く/継続就労)
・事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が支払われます。
・勤怠や仕事内容は事業所の就業規則に沿い、働き続けること自体を支援します。
・体調や希望により、一般就労への移行を目指すケースもあります。
就労継続支援B型(雇用契約なし/日中活動)
・雇用契約は結ばず、作業への参加に対して工賃が支払われます(賃金ではありません)。
・体調や特性に合わせ、生活リズムの安定や体力づくりから段階的に取り組みます。
・次の一歩としてA型や就労移行へ進むこともあります。
※いずれも市区町村の受給者証にもとづいて利用します(自治体により運用差があります)。
働き方・収入・期間の違い(比較表)
比較項目 | 就労移行支援 | A型(就労継続支援) | B型(就労継続支援) |
---|---|---|---|
目的 | 一般就労への移行(就職と職場定着) | 雇用契約の下で働き続ける(継続就労) | 日中活動・生産活動で生活リズム/ステップアップ |
契約関係 | 福祉サービスの利用契約(雇用契約ではない) | 事業所と雇用契約(労働者) | 福祉サービスの利用契約(雇用契約ではない) |
収入 | 賃金は原則なし(企業実習は無給が一般的) | 賃金(最低賃金以上が原則) | 工賃(お給料ではない) |
主な内容 | 就職準備訓練、ビジネス・PC、就活支援、職場実習 など | 実際の業務に従事(軽作業・事務・清掃 等) | 生産活動(内職・創作・軽作業 等)と生活リズムづくり |
期間 | 原則2年(必要に応じ最大1年の更新可) | 期間の定めなし | 期間の定めなし |
次の一歩 | 一般就職 → 就労定着支援へ | A型で継続/一般就職へ移行も | 体調・希望に応じてA型・移行・地域活動へ |
数字でみる:全国平均(令和5年度/厚労省)
就労継続支援 A型|平均賃金(全国)
86,752円/月(令和5年度)
出典:厚生労働省「令和5年度 工賃(賃金)の実績」
就労継続支援 B型|平均工賃(全国)
23,053円/月(令和5年度)
※令和5年度から算出方式が変更。前年と単純比較不可(同出典)。
都道府県別の目安(令和5年度)— 北海道/千葉
北海道
千葉県
出典:厚生労働省「令和5年度 工賃(賃金)の実績」(全国・都道府県別表)。B型はR5から算出方式が変更。
【H2】料金・自己負担の仕組み(上限月額)
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限(月額) |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 課税(所得割16万円未満)※通所 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※厚生労働省「障害者の利用者負担」より。入所・グループホーム等は取り扱いが異なります。
こんな人に向いています(目安)
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就労移行支援:半年〜2年で就職を目指したい/履歴書・面接・職場実習など就活の伴走が欲しい方
すぐ解説
事業所とは雇用契約を結ばず、訓練と就活支援に集中します。実習は原則無給ですが、職場体験と応募〜面接同行〜内定後の定着準備まで一連でサポートされます。 -
A型:4〜6時間×週3〜5日を継続できそうで、雇用契約で働きたい方
すぐ解説
事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が発生します。勤怠や業務の指示に沿って働く前提のため、安定通所が見込める方に向いています。状況により一般就労へ移行するケースもあります。 -
B型:まずは短時間の作業や日中活動から始め、生活リズムを整えたい方
すぐ解説
雇用契約は結ばず、作業への参加に対して工賃が支払われます(賃金ではありません)。体調の波に合わせて無理なく取り組めるため、体力づくりや生活リズム作りのステップに向いています。
選び方のコツ(3つの視点)
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1)いま通える日数と時間(週◯日・1日◯時間)を書き出す
すぐ解説
「週3以上・1日4時間程度」が一つの目安です。就労移行では訓練や実習の日程を組みやすく、A型はシフト勤務に近い運用になります。迷う場合は、まずは少ない日数から体験で確認しましょう。 -
2)就職希望時期(◯か月以内/1年以内 など)を決める
すぐ解説
就労移行は標準24か月の中で計画を組みます。早期就職を狙う場合は、見学→実習→応募までの道筋を最初に共有しておくとスムーズです。 -
3)必要な配慮(通勤・在宅可否・人間関係のサポート 等)を箇条書きにする
すぐ解説
配慮事項は見学・体験でのチェック項目です。通勤ルートや勤務時間帯、コミュニケーション支援の有無、在宅訓練の可否など、具体的に書き出して相談に持参すると、事業所・自治体の判断が早まります。
1)いま通える日数と時間(週◯日・1日◯時間)を書き出す。
2)就職希望時期(◯か月以内/1年以内 など)を決める。
3)必要な配慮(通勤・在宅可否・人間関係のサポート 等)を箇条書きにする。
→ 迷ったら見学・体験で実際の支援内容を確認しましょう。
利用までの流れ(かんたん)
1)相談:市区町村の障害福祉課や計画相談へ。
2)見学・体験:適合度をチェック(在宅可否・通所日数・配慮事項)。
3)申請:受給者証を申請(詳しい手順は「受給者証の取り方(保存版)」をご覧ください)。
よくある質問(FAQ)
A型とB型はどちらが“上”ですか?
上下の関係ではありません。体調や希望に合わせて支援内容が異なるだけです。
就労移行支援からA型/B型に切り替えることはできますか?
できます。ご本人の状況に合わせて相談支援で調整します(自治体の判断があります)
A型の賃金とB型の工賃は何が違いますか?
A型は雇用契約にもとづく賃金(最低賃金以上)です。B型の工賃は賃金ではなく、作業に応じた対価です。
就労移行支援は本当に2年までですか?
原則2年ですが、必要性が認められる場合は最大1年の更新が可能です(自治体審査あり)。
就職後の支援はありますか?
あります。就労定着支援により、就職6か月後から最長3年間の定着支援を受けられます。
出典(一次情報)と更新履歴
- 厚生労働省「令和5年度 工賃(賃金)の実績について」(PDF)
- 厚生労働省「障害者の利用者負担(負担上限月額)」
- 厚生労働省「就労移行支援(標準期間24か月・更新可)」(PDF)
- 厚生労働省「就労定着支援の実施について」(PDF)
・最終更新日:2025年8月12日

この記事の監修者
市原 早映(いちはら さえ)
2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。