「就労移行支援とA型・B型って、名前が似ていてどれが自分に合うのか分からない…」
「今の自分の体調や状況で、どのサービスを選べばいいんだろう?」
「それぞれの違いは分かったけど、結局どれから始めればいいの?」
そんな風に、一人で悩んでいませんか?
これらの制度は、あなたの「次の一歩」を支える大切な選択肢ですが、違いが分かりにくく、最適なものを選ぶのは簡単ではありません。
この記事では、単なる制度解説だけでなく、あなたが今どんな状況にいるかを基に、最適な選択肢が見つかる「30秒セルフチェック」と具体的な選び方をまとめました。読み終わる頃には、あなたが進むべき道の具体的なイメージが湧いているはずです。
特に重要なのは、「どれが上でどれが下」という序列はなく、今のあなたの状況と目標に合ったサービスを選ぶことです。 <!– 目次は自動生成 –>
この記事で分かること
- 就労移行支援・A型・B型の違いが30秒で分かる
- あなたの今の体調・生活リズムから見た「おすすめのサービス」
- B型→A型→一般就労など、よくあるステップアップの流れ
「とにかく自分はどれ?」という方は、この後の30秒セルフチェックから読んでみてください。
そもそも、この3つのサービスってどんなもの?
名前が似ていて分かりづらいですが、ざっくり分けると次のようなイメージです。
就労移行支援:一般企業で働くための「職業訓練校・予備校」
2年間、”就職するための練習”に集中するイメージです。訓練期間中は給料は出ませんが、履歴書の書き方から面接練習、企業実習まで、就職に必要なすべてを学べます。
就労継続支援A型:会社と同じように雇用契約を結んで働く職場
最低賃金以上の「給料」が出ます。すぐに一般企業で働くのは難しいけれど、雇用契約を結んで安定した収入を得たい方に向いています。
就労継続支援B型:体調に合わせて通える「リハビリ兼おしごとの場」
雇用契約はなく、「工賃」という形で少額の収入が出ます。週1日・1時間からでもOKで、生活リズムを整える第一歩として最適です。
「しっかり就職したい」「まずは生活リズムから」「今すぐ収入が必要」など、あなたの今の状態によって合うサービスが変わります。
まず結論:就労移行支援・A型・B型の違いを30秒で理解する
3つのサービスの決定的な違い
就労移行支援:一般企業への就職を目指す「訓練校」
- 原則2年間で就職準備訓練を受ける
- 事業所とは雇用契約を結ばない
- 訓練期間中の賃金はなし(実習も原則無給)
- ほとんどの方が利用料0円
A型(就労継続支援A型):雇用契約を結んで働く「福祉的配慮のある職場」
- 期間の定めなし(継続して働ける)
- 事業所と雇用契約を結ぶ(労働者)
- 最低賃金以上の賃金(全国平均86,752円/月 ※令和5年度)
- ほとんどの方が利用料0円
B型(就労継続支援B型):自分のペースで参加できる「社会参加のリハビリの場」
- 期間の定めなし(週1日・1時間からでもOK)
- 雇用契約は結ばない(利用契約のみ)
- 工賃(賃金ではない。全国平均23,053円/月 ※令和5年度)
- ほとんどの方が利用料0円
選ぶ基準
- 「就職」が目標 → 就労移行支援
- 「安定した給与を得ながら働きたい」 → A型
- 「まずは週1日から、生活リズムを整えたい」 → B型
30秒セルフチェック|あなたに合うのはどのサービス?
以下の3つの質問に答えるだけで、あなたに最も合ったサービスが見えてきます。
Q1. 今の目標は「一般企業への就職」ですか?
「はい」の場合 → 就労移行支援が第一候補
一般企業での就職を目指し、履歴書作成・面接練習・職場実習などの就活支援を2年以内で受けたい方に最適です。訓練期間中に、自分に合った仕事を見つけ、長く働き続けるためのスキルと自信を身につけます。
訓練内容の例:
- ビジネスマナー(報告・連絡・相談、メール、電話対応)
- PC操作(Word、Excel、PowerPoint)
- 専門スキル(IT、事務、軽作業、デザインなど ※事業所により異なる)
- 企業実習(実際の企業で数日〜数週間の体験)
- 就活支援(履歴書添削、面接練習、求人紹介)
「いいえ/まずは様子を見たい」の場合 → Q2へ
Q2. 事業所と雇用契約を結び、安定した給与を得ながら働きたいですか?
「はい」の場合 → A型事業所が合っている可能性大
週3〜5日、1日4〜6時間程度の勤務で、最低賃金以上の給与を得ながら継続して働けます。すぐに一般就労は難しいけれど、雇用契約のある安定した環境で社会の一員として働きたい方に向いています。
A型の特徴:
- 雇用契約がある:労働者として雇用される
- 最低賃金以上の給与:全国平均86,752円/月(令和5年度。事業所により異なる)
- 勤務日数・時間が決まっている:週3〜5日、1日4〜6時間程度(事業所により異なる)
- 業務内容は実務:軽作業、事務、清掃、飲食店運営など
「いいえ/まだ自信がない」の場合 → Q3へ
Q3. まずは自分のペースで、週1日や短時間から社会参加に慣れていきたいですか?
「はい」の場合 → B型事業所がおすすめ
雇用契約はありませんが、体調や体力に合わせて無理なく生産活動に参加できます。工賃は少額ですが、生活リズムを整える第一歩として最適です。週1日・1日1時間など、ごく短時間から始めたい方に向いています。
B型の特徴:
- 雇用契約はない:利用契約のみ
- 工賃(賃金ではない):全国平均23,053円/月(令和5年度。事業所により異なる)
- 参加日数・時間は柔軟:週1日・1時間からでもOK(事業所により異なる)
- 活動内容は生産活動:内職、創作活動、軽作業、農作業など
「迷っている」の場合 → 複数の事業所を見学・体験
見学や短期体験で、実際の雰囲気や支援内容を確認することをお勧めします。体験利用は無料で、回数制限もありません。
一目でわかる!就労移行支援・A型・B型の違い【比較表】
| 比較項目 | 就労移行支援 | A型 | B型 |
|---|---|---|---|
| 一言でいうと | 就職の「訓練校」 | 「福祉的配慮のある職場」 | 社会参加の「リハビリの場」 |
| 目的 | 一般就労への移行 | 雇用契約の下で働き続ける | 日中活動・生活リズムづくり |
| 契約関係 | 利用契約(雇用契約ではない) | 雇用契約(労働者) | 利用契約(雇用契約ではない) |
| 収入 | 原則なし | 賃金(最低賃金以上) | 工賃(賃金ではない) |
| 主な内容 | 就職準備訓練、ビジネスマナー・PC、就活支援、職場実習 など | 実際の業務に従事(軽作業・事務・清掃 等) | 生産活動(内職・創作・軽作業 等)と生活リズムづくり |
| 期間 | 原則2年(最大1年延長可) | 期間の定めなし | 期間の定めなし |
| 通所頻度 | 週4〜5日が標準 | 週3〜5日 | 週1日〜毎日(調整可) |
| 1日の時間 | 4〜6時間程度 | 4〜6時間程度 | 1時間〜6時間(調整可) |
| 次の一歩 | 一般就職 → 就労定着支援へ | A型で継続/一般就職へ移行も | 体調・希望に応じてA型・移行・地域活動へ |
数字でみる:全国平均と就職実績(令和5年度)
※事業所により大きく異なります(最低賃金×労働時間で計算されるため)
※令和5年度から算出方式が変更されたため、前年度と単純比較はできません
※事業所により大きく異なります(月3,000円〜50,000円以上まで幅があります)
※「サービス利用終了者のうち、一般就労に移行した人の割合」です
※令和2年度53.4%、令和3年度56.3%、令和4年度57.2%と年々増加傾向です
※事業所により大きく異なります(10%未満〜80%以上まで幅があります)
収入のざっくり目安|生活イメージをつかむ
正確な金額は事業所や働き方によって大きく変わりますが、全国平均からみた「ざっくりイメージ」は次のとおりです。
| サービス | 典型的な働き方の例 | 月の収入イメージ(目安) | コメント |
|---|---|---|---|
| 就労移行支援 | 週4〜5日・4〜6時間 通所 | 0円(給料なし) | 訓練中は原則収入なし。障害年金やご家族の支援と組み合わせることが多いです。 |
| A型 | 週5日・1日6時間 | 8〜12万円前後 | 全国平均は86,752円/月(令和5年度)。地域の最低賃金や勤務時間で大きく変わります。 |
| B型 | 週3日・1日3〜4時間 | 1〜2万円前後 | 全国平均は23,053円/月(令和5年度)。あくまで「お小遣い+リハビリ」のイメージです。 |
現実的な生活費の組み合わせ:
実際には、障害年金・生活保護・ご家族からの支援などと組み合わせて生活しているケースがほとんどです。「生活費をどこまで自分の収入でまかなう必要があるか」を整理してから、A型・B型・就労移行を選ぶと安心です。
最低賃金の地域差(2024年10月改定後):
- 全国加重平均:1,055円
- 東京都:1,163円
- 地方都市:900円台〜1,000円前後
※上記の最低賃金は2024年度(令和6年度)改定時点の数字です。2025年度はさらに引き上げが予定されており、**全国加重平均は1,121円(東京都は1,226円)**とされています。最新の金額は、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で必ず確認してください。
A型の給料は「最低賃金×労働時間」で計算されるため、地域と勤務時間で大きく変わります。
それぞれに向いている人|3つのタイプを深掘り
タイプ1:就労移行支援に向いている人
具体的な状況:
- 一般企業への就職という明確な目標がある
- 基本的な生活リズムは整っている(朝起きられる、夜眠れる)
- 週4〜5日、4〜6時間程度の通所が可能
- 就職活動の具体的なサポートを求めている
- 「どんな仕事が自分に合うのか分からない」という悩みがある
就労移行支援は、「一般企業への就職」を2年以内に達成することを目指す訓練サービスです。事業所とは雇用契約を結ばず、訓練と就活支援に集中します。週4〜5日の通所が標準ですが、最初は週3日からスタートして徐々に増やすことも可能です。訓練期間中の賃金はありませんが、利用料はほとんどの方が0円です。
企業実習は原則無給ですが、実際の職場で数日〜数週間働く経験を通じて、自分に合う仕事を見つけられます。履歴書の添削、面接練習、企業への同行など、就職活動を手厚くサポートしてくれるため、「一人で就活するのは不安」という方に最適です。
学べるスキル(事業所により大きく異なる):
- 基礎スキル:ビジネスマナー、報告・連絡・相談、PC操作(Word、Excel、PowerPoint)
- 専門スキル:IT(プログラミング、Webデザイン)、事務、軽作業、経理、デザイン、動画編集など
- 就活スキル:履歴書・職務経歴書の書き方、面接対策、企業研究、自己分析
こんな人には不向き:
- まだ週1〜2日の通所も難しい → その場合はB型から開始を検討
- すぐに収入が必要 → 訓練期間中は賃金なし。その場合はA型を検討
【実務者の視点|市原早映】
「就労移行支援は、『就職したいけど、何から始めればいいか分からない』という方に最適です。最初の3〜6か月は基礎訓練(ビジネスマナー、PC操作など)、次の3〜6か月は専門訓練(IT、事務など)、最後の6〜12か月は就活と実習、という流れが一般的です。焦らず、自分のペースで進めましょう。」
タイプ2:A型に向いている人
具体的な状況:
- すぐに一般就労は難しいが、雇用契約のある安定した環境で働きたい
- 週3〜5日、1日4〜6時間程度の勤務が可能
- 最低賃金以上の収入を得ながら、社会の一員として役割を果たしたい
- 業務の指示に従って働ける
- 決まった時間に通える(シフト勤務に近い)
A型は、事業所と雇用契約を結んで働く福祉サービスです。最低賃金以上の賃金が発生し、全国平均は86,752円/月(令和5年度)です。ただし、これは最低賃金×労働時間で計算されるため、事業所や勤務時間により大きく異なります。週5日・6時間勤務なら10万円以上、週3日・4時間勤務なら5〜6万円程度が目安です。
雇用契約があるため、勤怠管理や業務の指示に沿って働く前提です。遅刻・欠勤が続くと、一般企業と同じように注意や指導を受けます。ただし、福祉的配慮があるため、体調不良での欠勤や通院への理解は一般企業より高いです。
主な業務内容(事業所により大きく異なる):
- 軽作業:部品組立、梱包、検品、ピッキングなど
- 事務作業:データ入力、書類整理、電話対応、郵便物の仕分けなど
- 清掃業務:施設清掃、ビルメンテナンス、窓拭きなど
- 飲食店運営:調理補助、接客、洗い場など
- IT関連:HP制作、動画編集、データ入力など
勤務条件の例:
- 週5日・6時間勤務:賃金約10〜12万円/月
- 週4日・5時間勤務:賃金約8〜10万円/月
- 週3日・4時間勤務:賃金約5〜6万円/月
※最低賃金は地域により異なります(2024年10月改定後:全国加重平均1,055円、東京1,163円)
こんな人には不向き:
- 毎日決まった時間に通うのが難しい → その場合はB型を検討
- 業務の指示に従うことが難しい → その場合はB型で慣れてから移行を検討
【実務者の視点|市原早映】
「A型は雇用契約があるため、『労働者』としての責任が伴います。ただし、週3日・4時間からスタートし、慣れてきたら週5日・6時間に増やすなど、段階的に調整できる事業所もあります。最初から完璧を目指さず、まずは安定した通所から始めましょう。」
タイプ3:B型に向いている人
具体的な状況:
- まずは生活リズムを整え、社会とのつながりを取り戻したい
- 毎日通うのはまだ難しい。週1日や1日1時間など、ごく短時間から始めたい
- 安心できる環境で簡単な作業を行い、少しずつ自信と体力をつけたい
- 体調の波が大きく、柔軟な参加スケジュールが必要
- 「いきなり雇用契約は不安」という気持ちがある
B型は、雇用契約を結ばず、日中活動として生産活動に参加するサービスです。作業への参加に対して工賃が支払われますが、これは賃金ではありません。全国平均は23,053円/月(令和5年度)ですが、事業所により大きく異なります(月3,000円〜50,000円以上まで幅があります)。
週1日・1時間からでもOKで、体調に合わせて無理なく取り組めます。「今週は体調が悪いから週1日だけ」「今月は調子がいいから週3日に増やす」といった柔軟な調整が可能です。生活リズムを整える第一歩として、多くの方がB型からスタートします。
主な活動内容(事業所により大きく異なる):
- 内職作業:袋詰め、シール貼り、組立、検品など
- 創作活動:手芸、陶芸、絵画、アクセサリー作りなど
- 軽作業:清掃、農作業、パン作り、お菓子作りなど
- PC作業:データ入力、文書作成、HP制作など
参加条件の例:
- 週1日・2時間:工賃約3,000〜5,000円/月
- 週2日・4時間:工賃約8,000〜12,000円/月
- 週5日・6時間:工賃約20,000〜30,000円/月
※工賃は作業内容や参加時間により大きく異なります
こんな人には不向き:
- すぐに安定した収入が必要 → 工賃は少額。その場合はA型を検討
- 毎日決まった時間に通える → その場合は就労移行やA型を検討
【実務者の視点|市原早映】
「B型は『生活リズムを整える第一歩』として最適です。最初は週1日・1時間から始め、慣れてきたら週2日・3時間に増やすなど、無理のないペースで進められます。工賃は少額ですが、『自分の力で何かを作り上げた』という達成感が自信につながります。体調が安定したら、A型や就労移行への移行も可能です。」
就労移行支援・A型・B型の違いと「どれを選ぶべきか」のまとめ
ここまでの内容を整理すると、以下のように覚えておくと分かりやすいです。
一般企業への就職を目指すなら「就労移行支援」
- 2年間で就職準備訓練を受ける
- 訓練期間中は給料なし
- 履歴書作成・面接練習・企業実習など、就活支援が充実
週3〜5日・1日4〜6時間で働けて、安定収入がほしいなら「A型」
- 雇用契約を結んで働く
- 最低賃金以上の給料(全国平均86,752円/月)
- 決まった時間に通う必要がある
週1日・短時間からリハビリ的に通いたいなら「B型」
- 雇用契約は結ばない
- 工賃は少額(全国平均23,053円/月)
- 体調に合わせて柔軟に参加できる
詳しくは、この記事全体を通して自分の状況と照らし合わせてみてください。
診断チェックリスト|あなたに合うのはどのサービス?
診断チェックリスト
✓ 就労移行支援が向いている可能性が高い人
✓ A型が向いている可能性が高い人
△ B型が向いている可能性が高い人
✓が4つ以上:該当するサービスが最適な可能性が高い
✓が2〜3つ:該当するサービスの検討価値あり(体験利用推奨)
複数のサービスに該当:見学・体験で実際の雰囲気を確認
選び方の3つのコツ|迷った時の判断基準
コツ1:「今すぐ就職したいか、まずは生活リズムからか」を決める
最初に考えたいのは、あなたの今のゴールがどこにあるかです。
「できれば早めに一般企業で働きたい」の場合:
- 就労移行支援が第一候補
- 2年間しっかり訓練
- 企業実習や就活サポートを受けながら就職を目指す
「今すぐ就職というより、まずは”通う練習・働く練習”から」の場合:
- A型・B型が候補
- ある程度まとまった時間・日数を通えそう → A型で雇用契約を結んで働く
- まだ体調に波があり、週1日・短時間から始めたい → B型で生活リズムづくりとリハビリ
ここで大事なのは、「どれが上・どれが下」ではなく、「今の自分にとって現実的なゴールはどこか」を一度はっきりさせることです。
「就職したい気持ちはあるけど、まだ朝起きられない日が多い」という状態なら、まずはB型で生活リズムを整えるところから始める方が、結果的に就職への近道になることもあります。逆に、「生活リズムは整っているし、早く就職したい」という状態なら、就労移行で集中的に訓練する方が効率的です。
具体例:
- Hさん(20代、発達障害):「早く就職したい」という明確な目標があり、週4日・4時間の通所が可能だったため、就労移行を選択。1年半で一般企業に就職。
- Iさん(30代、うつ病):「まずは外に出る習慣から」という状態だったため、B型で週1日・2時間からスタート。半年後、週3日・4時間まで増やせた。
コツ2:就労移行は「原則2年間」→使うタイミングを慎重に選ぶ
就労移行支援の利用期間:
- 原則として通算2年間(自治体判断)まで利用可能
- 必要と認められた場合のみ、最大1年の延長が認められることがある(自治体判断)
つまり、就労移行は 「人生の中で使える、2年分の集中トレーニング期間」 というイメージです。
そのため、以下のようなタイミングで使うほうが、本来の力を発揮しやすくなります:
就労移行を使うのに適したタイミング:
- **「この2年間で本気で就職を目指したい」**という気持ちがある
- **「今なら、週4〜5日の通所や就活にある程度集中できそう」**という状態
- 生活リズムが整っている(朝起きられる、夜眠れる)
逆に、以下のような状態で就労移行を使い始めてしまうと、2年の大半を「体調の立て直し」に使い切ってしまい、就職活動の時間が足りないということも起こりえます:
就労移行を使うのに早すぎる可能性があるタイミング:
- まだ週1〜2日の外出もきつい
- 通院や休養を優先したい
- 体調の波が大きく、そもそも通うことが不安定
そんなときは、まずはB型で生活リズムと体力づくり → ある程度通えるようになってから「就労移行2年のカード」を切るという順番を意識しておくと安心です。
具体例:
- Jさん(40代、双極性障害):体調が不安定な時期に就労移行を利用開始。1年間、週1〜2日しか通えず、訓練が進まなかった。一度B型に切り替えて半年間、週3日・4時間で通えるようになってから、再度就労移行に戻り、残りの1年で就職に成功。
- Kさん(20代、精神障害):B型で1年間、生活リズムを整えてから就労移行に切り替え。2年間フルに訓練と就活に使え、IT企業に就職。
「就労移行の2年間をいつ使うか」は、人生の中で重要な判断です。焦らず、タイミングを見極めましょう。
コツ3:「収入が必要か」で判断する
もう一つ、現実的だけれどとても大事なのが、「どの程度の収入が必要か」 という視点です。
就労移行支援:訓練期間中は原則収入なし
- 企業実習も基本は無給
- 生活費は、障害年金・生活保護・ご家族の支援などと組み合わせるケースが多い
- 「今は収入よりも、将来の就職のために時間を使いたい」人向け
A型:月数万円〜10万円前後
- 事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給料が出る
- 勤務時間にもよるが、月5〜12万円になることが多い
- 「今の生活費の足しになる収入がほしい」「自分の稼ぎを作りたい」人向け
B型:工賃(お小遣い程度)
- 全国平均は月2万円前後
- 生活費をまかなうレベルではなく、**「リハビリ+少しのお小遣い」**というイメージ
- 「まずは体調と生活リズムを整えることを優先したい」人向け
ポイントは、「自分ひとりの収入でどこまで生活費をまかなう必要があるか」を一度紙に書き出してみること。
収入の必要度別の判断:
- 「今は家族の支援もあり、2年間は収入ゼロでもなんとかなる」 → 思い切って就労移行で就職に集中する選択もしやすくなります
- 「年金や家族の支援だけでは不安。毎月○万円は自分でも稼ぎたい」 → A型をメインに考えつつ、将来就労移行に移るタイミングを相談する、という選択肢も出てきます
- 「まずは少額でもいいから、自分で稼ぐ経験をしたい」 → B型で少額の工賃を得ながら、生活リズムを整える
具体例:
- Lさん(30代、障害年金受給):年金+家族の支援があり、2年間は収入ゼロでも大丈夫。就労移行に集中し、1年半で一般企業に就職。
- Mさん(20代、一人暮らし):家賃・生活費を一部自分で負担する必要があったため、A型で月8万円の給料を得ながら働いた。2年後、体調が安定したため、就労移行に切り替え。
この3つのコツで方向性を決める
この3つのコツは、
- ゴール(就職か、まずは生活リズムか)
- 就労移行2年の「カード」をいつ使うか
- どの程度の収入が必要か
という大きな方向性を決めるためのものです。
そのうえで、「具体的にどの事業所にするか」「通い方をどうするか」は、この後の診断チェックリストや見学・体験のポイントと組み合わせて決めていきましょう。
サービスを切り替えるタイミングの目安
実際には、1つのサービスをずっと使い続けるのではなく、体調や目標に合わせて切り替えていく方が多いです。
目安としては、次のようなイメージです。
B型 → A型を考えるタイミング
状態ベースの目安:
- 週3日・1日4時間くらいなら、だいたい通えるようになってきた
- 遅刻やドタキャンがあっても「たまに」くらいになってきた
- 「もう少し収入を増やしたい」という気持ちが出てきた
- 簡単な作業なら、指示を聞いて一人でできるようになった
具体例:
Eさん(40代、双極性障害)は、B型で週1日・2時間からスタート。半年で週3日・4時間まで増やせたため、A型に移行しました。最初は週3日・4時間の勤務でしたが、1年後には週5日・6時間まで増やせました。
B型 → 就労移行支援を考えるタイミング
状態ベースの目安:
- 「いつかは一般企業で働きたい」という気持ちがはっきりしてきた
- 週3〜4日ペースで通える生活リズムが整ってきた
- 人付き合いや作業にも少し自信がついてきた
- PC操作や事務作業に興味が出てきた
具体例:
Fさん(20代、発達障害)は、B型で1年間、週2日・3時間で内職作業に参加。生活リズムが整い、「PCスキルを学んで就職したい」という目標ができたため、就労移行支援に切り替えました。1年半の訓練後、IT企業に就職しました。
就労移行支援 → A型/B型に切り替えるケース
状態ベースの目安:
- 体調が崩れて「就職どころではない」と感じた → 一度B型で立て直す
- 就職には至らなかったが、収入が必要 → A型で働きながら再チャレンジ
- 2年間の訓練期間が終わったが、もう少し準備が必要 → A型やB型で実務経験を積む
具体例:
Gさん(30代、統合失調症)は、就労移行支援で1年間訓練を受けましたが、体調が不安定になり就職活動を中断。一度B型に切り替えて半年間、生活リズムを整えました。その後、再度就労移行支援に戻り、1年後に一般企業に就職しました。
「体調や状況が変わったらサービスも変えていい」という前提で考えた方が、気持ちが楽になります。
申込みから利用開始までの流れ【5つのSTEP】
相談窓口に連絡
即日〜1週間- 市区町村の障害福祉課
- 基幹相談支援センター
- 計画相談支援事業所(相談支援専門員)
事業所の見学・体験
1〜2週間- 複数の事業所を見学(1〜3箇所)
- 短期体験利用(1日〜1週間程度)
- 雰囲気、支援内容、通所のしやすさを確認
受給者証の申請
1〜2か月- 市区町村の申請書
- サービス等利用計画案(相談支援専門員が作成)
- 医師の意見書(場合による)
- 障害者手帳のコピー(持っている場合)
受給者証の発行
—- サービスの種類(就労移行支援、A型、B型)
- 支給量(1か月の利用日数。例:22日/月)
- 利用期間(開始日〜終了日)
- 負担上限月額(0円〜37,200円)
利用契約・利用開始
1週間- 事業所と利用契約を締結(A型の場合は雇用契約も)
- 個別支援計画の作成
- 訓練・業務開始
料金・自己負担の仕組み(上限月額)
| 区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限(月額) |
|---|---|---|
| 生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
| 低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 一般1 | 課税(所得割16万円未満)※通所 | 9,300円 |
| 一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※入所・グループホーム等は取り扱いが異なります
重要なポイント:
ほとんどの方が0円で利用できます
世帯の収入区分で負担上限が決定しますが、生活保護受給世帯・市町村民税非課税世帯は0円です。一般1(課税、所得割16万円未満)でも9,300円/月が上限です。利用料は、サービスの種類(就労移行・A型・B型)に関わらず同じです。
世帯の範囲:
- 18歳以上:本人と配偶者
- 18歳未満:保護者の属する住民基本台帳での世帯
ステップアップ事例|B型→A型→一般就労への道
ケーススタディ1:B型から始めて、A型を経て一般就労へ
Aさん(30代、うつ病)の経緯
スタート(B型):週1日・2時間から
長期の休職後、まずはB型で生活リズムを整えることに。最初は週1日・2時間の軽作業(袋詰め)から開始。「朝起きて、外に出る」ことが最初の目標でした。工賃は月3,000円程度でしたが、「できた」という達成感が自信につながりました。
3か月後:週3日・4時間に
慣れてきたら、週3日・4時間まで増やせました。工賃は月8,000円程度でしたが、「自分の力で何かを作り上げた」という達成感が自信につながりました。スタッフからも「安定して通えていますね」と評価されました。
1年後(A型):週4日・6時間
体調が安定したため、A型に移行。雇用契約を結び、最低賃金以上の給与(月9万円程度)を得ながら働きました。事務作業を担当し、2年間継続しました。「給料をもらって働く」という経験が、さらに自信につながりました。
3年後(一般企業):週5日・7時間
A型での実績を評価され、一般企業(事務職)に就職。就労定着支援を利用し、職場に定着。現在も安定して勤務中です。
成功のポイント:
- 焦らず、自分のペースでステップアップ
- B型→A型→一般就労という段階的な移行
- 各段階で「できた」という成功体験を積み重ねた
- スタッフのサポートを受けながら、無理なく進めた
ケーススタディ2:就労移行から直接一般就労へ
Bさん(20代、発達障害)の経緯
就労移行(1年6か月)
IT特化型の就労移行事業所でWebデザインを学習。週5日・6時間の訓練に参加しました。最初の6か月は基礎訓練(HTML、CSS、Photoshop)、次の6か月は専門訓練(JavaScript、Webサイト制作)、最後の6か月は就活と企業実習でした。
企業実習では、実際のWeb制作会社で2週間の実習を3回経験しました。「実務経験を積めたことで、面接でも自信を持って話せた」とBさんは振り返ります。
就職(Web制作会社):週5日・8時間(在宅勤務可)
実習先の企業から正式にオファー。在宅勤務メインで、週1日のみ出社という働き方です。就労定着支援を利用し、職場に定着しています。
成功のポイント:
- 専門スキルを身につけたことで、希望職種に就職
- 企業実習で実務経験を積み、企業との相性を確認
- 在宅勤務という働き方で、通勤負担を軽減
- 就労定着支援で、職場に定着
よくある質問(FAQ)
Q1. A型とB型はどちらが”上”ですか?
A: 上下の関係ではありません。体調や希望に合わせて支援内容が異なるだけです。
A型は雇用契約があり、最低賃金以上の給与を得られますが、決まった時間に通う必要があります。B型は雇用契約はありませんが、体調に合わせて柔軟に参加できます。
どちらが優れているかではなく、今のあなたに合っているのはどちらかで選びましょう。B型で体調を整えてからA型に移行する方も多いですし、A型で働きながら一般就労を目指す方もいます。
Q2. 就労移行支援からA型/B型に切り替えることはできますか?
A: できます。ご本人の状況に合わせて相談支援で調整します(自治体の判断があります)。
切り替え例:
- 就労移行 → B型:体調が不安定になったため
- B型 → 就労移行:体調が安定したため、就職を目指したい
- A型 → 就労移行:一般就労を目指したい
切り替えには、受給者証の変更申請が必要です。相談支援専門員に相談しましょう。
Q3. 就労移行支援は本当に2年までですか?
A: 原則2年ですが、必要性が認められる場合は最大1年の更新が可能です(自治体審査あり)。
更新が認められる例:
- 就職活動が長引いている
- 企業実習を継続している
- 専門スキルの習得にもう少し時間が必要
- 障害の状態が変化し、訓練期間の延長が必要
更新には、事業所からの意見書や、相談支援専門員の計画案が必要です。自治体が判断します。
Q4. 就職後の支援はありますか?
A: あります。就労定着支援により、就職6か月後から最長3年間の定着支援を受けられます。
就労定着支援の内容:
- 月1回以上の面談(職場または自宅)
- 職場との調整(勤務時間、業務内容、配慮事項など)
- 生活面のサポート(通院、金銭管理、余暇活動など)
- 緊急時の相談対応
利用料: 0円〜9,300円/月(世帯収入による。ほとんどの方が0円)
就労定着支援は、就職後6か月間は就労移行事業所が無料で行い、その後は就労定着支援事業所に引き継ぐのが一般的です。
Q5. 体験利用は何回までできますか?
A: 回数制限はありません。複数の事業所を体験して、自分に合ったところを選べます。
体験利用は無料で、受給者証がなくても参加できます。1日だけの見学から、1週間程度の短期体験まで、事業所によって対応が異なります。
体験利用の流れ:
- 気になる事業所に電話・メールで連絡
- 見学日を予約
- 見学・体験(1日〜1週間程度)
- 気に入らなければ他の事業所を試す
まずは気になる事業所に連絡してみましょう。
Q6. 障害者手帳がないと利用できませんか?
A: 手帳がなくても利用できます。医師の意見書などに基づき、市区町村がサービスの必要性を判断します。
障害者手帳がなくても、医師の診断書があれば受給者証を申請できます。精神科や心療内科の診断書でもOKです。
手帳なしで利用できる例:
- うつ病、適応障害などの診断書がある
- 発達障害の診断書がある(手帳を取得していない場合)
- 難病の診断書がある
まずは相談窓口に相談してみましょう。
Q7. 就労移行の訓練中、収入はゼロですか?
A: 訓練期間中は原則として賃金は発生しません。企業実習も無給が一般的です。
ただし、生活費が心配な場合は、以下の制度を検討できます:
- 障害年金(受給要件を満たす場合)
- 生活保護(必要な場合)
- 傷病手当金(健康保険加入者の場合)
すぐに収入が必要な場合は、A型での就労を検討しましょう。A型なら、最低賃金以上の給与を得ながら働けます。
Q8. B型からA型に移行するのは難しいですか?
A: 難しくありません。体調が安定し、週3日以上・4時間程度の勤務が可能になれば、A型に移行できます。
B型で生活リズムを整え、体力をつけてからA型に移行する方は多いです。事業所によっては、B型とA型を併設しているところもあり、スムーズに移行できます。
移行の流れ:
- B型で週1日・2時間からスタート
- 3〜6か月で週3日・4時間まで増やす
- 体調が安定したら、相談支援専門員に相談
- A型の事業所を見学・体験
- 受給者証の変更申請
- A型に移行
Q9. 在宅訓練はできますか?
A: 就労移行支援、A型、B型のいずれも、条件を満たせば在宅訓練を認めている自治体・事業所がありますが、対応状況にはかなり差があります。
在宅訓練の条件:
- 通所困難な理由がある(身体的・精神的・地理的)
- 自宅に訓練環境がある(PC、ネット回線、集中できる空間)
- 月1回の対面支援(スタッフ訪問または通所)
完全在宅、またはハイブリッド型(週3在宅・週2通所など)が選べる事業所もあります。「在宅訓練に対応しているか」「どのくらい在宅が認められるか」は、見学や体験のときに必ず確認しましょう。
Q10. 利用中に他のサービスに変更できますか?
A: できます。体調や状況に応じて、柔軟に変更できます。
変更例:
- 就労移行 → B型:体調が不安定になった
- B型 → A型:体調が安定し、雇用契約で働きたい
- A型 → 就労移行:一般就労を目指したい
変更には、受給者証の変更申請が必要です。相談支援専門員に相談しましょう。
まとめ:最適な「次の一歩」を見つけるために
就労移行支援・A型・B型に「どれが優れている」という序列はありません。大切なのは、「今のあなた」の状態に最も合ったサービスを選ぶことです。
選択のポイント
1. まずは「就職」が目標か、「働く練習」が目標かを考える
- 就職が目標 → 就労移行支援
- 働く練習が目標 → A型、B型
2. 通える日数や時間、欲しいサポートを書き出してみる
- 週4〜5日・4〜6時間 → 就労移行、A型
- 週1〜2日・1〜3時間 → B型
3. 少しでも気になったら、必ず複数の事業所を見学・体験する
- 体験利用は無料、回数制限なし
- 実際の雰囲気を確認してから決める
焦らず、一歩ずつ
この記事が、あなたの道筋を照らすコンパスになれば幸いです。焦らず、あなたに合った最適な一歩を見つけてください。
次のステップ
自分に合ったサービスが見えてきたら、まずは相談窓口に連絡してみましょう。「まだ何も決まっていない」という段階でも大丈夫です。
出典・一次情報
- 厚生労働省「令和5年度 工賃(賃金)の実績について」(PDF)
- 厚生労働省「障害者の利用者負担(負担上限月額)」
- 厚生労働省「就労移行支援(標準期間24か月・更新可)」(PDF)
- 厚生労働省「就労定着支援の実施について」(PDF)
最終更新日: 2025年11月16日

