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精神障害のある方のための就労移行支援ガイド|統合失調症・うつ病・双極性障害の方へ

この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。

「病気を抱えたまま働けるのか不安…」 「また体調を崩してしまわないか心配」 「就労移行支援という言葉は聞いたけど、精神障害の自分でも使えるの?」

統合失調症、うつ病、双極性障害など精神障害のある方にとって、「仕事」と「体調管理」の両立は大きなテーマです。就労移行支援は、その不安に寄り添いながら、自分に合った働き方を見つけていくための公的支援サービスです。

この記事では、精神障害のある方が就労移行支援をどう活かせるか、病気ごとの特性を踏まえた利用のポイント、事業所の選び方、就職後の定着支援まで、一通りの流れを解りやすく解説していきmsづ。

特に重要なのは、精神障害があっても働き方の選択肢は複数あること、そして一人で抱え込まず、主治医・支援者・家族とチームで考えてよいということです。

目次

この記事で分かること

  • 精神障害のある方が抱えやすい「仕事の不安」の整理方法
  • 就労移行支援で受けられる具体的なサポート内容
  • 統合失調症・うつ病・双極性障害それぞれの特性を踏まえた活かし方
  • 利用開始までの流れと、主治医・家族との相談の仕方
  • メンタルヘルスを守りながら働くための支援の受け方
  • 自分に合う事業所を選ぶチェックポイント
  • 就職後の定着支援と長く働き続けるためのコツ

精神障害と「仕事」の不安を整理する

精神障害のある方が仕事について考えるとき、頭の中にはたくさんの不安が渦巻いています。「また体調を崩すのではないか」「職場に迷惑をかけるのではないか」「自分にできる仕事なんてあるのか」——こうした不安は、決してあなただけのものではありません。

就労移行支援を利用する多くの方が、同じような不安を抱えています。まずは、その不安を「よくある悩み」として整理してみましょう。整理することで、「自分だけが特別にできないわけではない」と気づき、少し心が軽くなるはずです。

よくある「仕事の不安」チェックリスト

以下のチェックリストで、自分に当てはまる項目を確認してみてください。

仕事の不安チェックリスト

当てはまる項目にチェックを入れてみましょう

1つでも当てはまるなら、就労移行支援の利用を検討してよいサインです。これらの不安は、精神障害のある方が就労を考えるときに非常によく挙げられるものです。

これらの不安は、精神障害のある方が就労を考えるときに、非常によく挙げられるものです。1つでも当てはまるなら、就労移行支援の利用を検討してよいサインです。

精神障害があっても選べる働き方のパターン

「精神障害があると働けない」わけではありません。働き方には、いくつかのパターンがあります。

精神障害があっても選べる働き方のパターン

働き方 特徴 向いている人
一般就労(オープン) 障害を開示し、配慮を受けながら働く。通院・服薬への配慮、勤務時間の調整が可能。 配慮が必要な方、安定した環境を求める方
一般就労(クローズ) 障害を開示せず働く。配慮はないが、職種や勤務地の選択肢が広い。 症状が安定している方、配慮が不要な方
短時間勤務・パート 週20時間未満、午前中のみ、週3日など。徐々に時間を延ばすことも可能。 体調に波がある方、まずは短時間から始めたい方
在宅勤務・リモート 自宅で仕事をする。通勤負担がなく、自分のペースで働ける。 対人不安がある方、通勤が困難な方、通院頻度が高い方

※就労移行支援では、これらの働き方の中から、あなたに合った選択肢を一緒に考えていきます。

就労移行支援では、これらの働き方の中から、あなたに合った選択肢を一緒に考えていきます。最初から完璧を目指す必要はなく、段階的に働き方を調整していくことが大切です。

精神障害のある方向け「就労移行支援」とは?

就労移行支援とは、障害のある方が就職し、長く働き続けるためのサポートを受けられる公的な福祉サービスです。精神障害のある方にとっては、医療機関(病院・クリニック)と職場をつなぐ「間の場所」として、重要な役割を果たします。

病院では症状の治療や服薬管理が中心ですが、就労移行支援では「働くために必要な準備」を実践的に進めていきます。一方で、企業の職場は、すぐに成果を求められる場所です。その間に、ゆっくり準備できる場所があることで、無理なく就職に向かっていけます。

※具体的な利用条件やサービス内容、自己負担額などは制度や自治体によって異なる場合があります。詳しくはお住まいの市区町村の窓口や、利用を検討している事業所に確認してください。なお、利用料金や受給者証の取得方法については、別記事で詳しく解説しています。

医療と仕事の”間”をつなぐ支援

療養中の方が、いきなり職場に戻るのは大きな負担です。「もう働けるはず」と焦って復職し、再び体調を崩してしまうケースも少なくありません。

就労移行支援は、この「間」を埋める役割を持っています。

療養期(病院・クリニック中心)
症状の治療、服薬調整、休養が中心。外出や人と会うことが難しい時期。

準備期(就労移行支援)
体調が安定してきたら、通所しながら「働くための準備」を進める時期。生活リズムを整え、自己理解を深め、職場見学や実習を経験します。

就職・定着期(職場+定着支援)
実際に就職し、職場で働き始める時期。就労移行支援は就職後も一定期間フォローを続け、職場との調整や相談に乗ります。

このように、段階を踏んで進めることで、再発のリスクを減らしながら、無理なく働き始めることができます。

精神障害のある方が就労移行支援で受けられるサポート

就労移行支援では、具体的にどんなサポートが受けられるのでしょうか。精神障害のある方に特に役立つサポートを紹介します。

体調管理・自己理解のサポート
自分の体調の波や、ストレスのサイン、疲れやすい場面などを記録し、振り返ります。「どんなときに調子を崩しやすいか」「どんな環境なら働きやすいか」を知ることで、自分に合った働き方が見えてきます。

生活リズムの安定化
毎日決まった時間に通所することで、生活リズムを整えます。朝起きる、身支度をする、決まった場所に通う——この習慣が、働くための基礎体力になります。

ビジネススキルの訓練
パソコンの基本操作、ビジネスマナー、報告・連絡・相談の仕方など、職場で必要なスキルを練習します。精神障害のある方の場合、「完璧にできなくても大丈夫」という安心感のある環境で、少しずつ慣れていくことが大切です。

職場実習・見学
実際の職場で短期間の実習を経験したり、企業見学に参加したりします。「この業界は自分に合いそうか」「どんな配慮があれば働けそうか」を確認する機会になります。

面接練習・履歴書作成
障害をどう伝えるか、どんな配慮をお願いするか、自分の強みをどう表現するかなど、実践的な準備を行います。

就職後の定着支援
就職して終わりではなく、その後も定期的に職場訪問や面談を行い、困りごとがないかを確認します。職場との調整が必要なときは、支援者が間に入ってサポートします。

📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
精神障害のある方の就労支援では、「焦らないこと」が何より大切です。私がこれまで支援してきた方の中には、最初は週2日・午前中だけの通所から始め、1年かけて週5日通えるようになった方もいます。そのペースで就職し、今も安定して働いています。「早く結果を出さなきゃ」と焦る必要はありません。

利用開始までのステップ:精神障害がある場合の流れ

就労移行支援を利用するには、いくつかのステップがあります。精神障害のある方の場合、特に「主治医との相談」「家族との話し合い」が重要になります。

主治医・家族と「働くこと」について話してみる

就労移行支援を利用する前に、まず主治医に相談してみましょう。「働くことを考えている」「就労移行支援の利用を検討している」と伝えることで、主治医は体調の見立てや、利用のタイミングについてアドバイスをくれます。

主治医に相談するときのポイント

  • 「働きたい気持ちがある」ことを素直に伝える
  • 今の体調で、どのくらいの活動なら可能そうか聞く
  • 就労移行支援の利用について、医学的に問題ないか確認する
  • 必要であれば、診断書や意見書を書いてもらう

主治医が「まだ早い」と言う場合もあります。その場合は、無理に進めず、まずは体調の安定を優先しましょう。「いつ頃なら検討できそうか」を聞いておくと、目標が見えてきます。

まだ主治医につながっていない方、診断を受けていない方は、まずお住まいの市区町村の障害福祉窓口や、地域の相談支援専門員に相談してみるのも一つの方法です。

家族にも、働くことを考えていることを伝えておきましょう。家族が不安に感じている場合は、一緒に事業所の見学に行ったり、説明会に参加したりすることで、理解が深まります。

見学・体験で「自分に合いそうか」を確かめる

主治医のOKが出たら、次は就労移行支援事業所の見学や体験利用に進みます。ほとんどの事業所は、無料で見学・体験を受け付けています。

見学・体験で確認したいポイント

  • 雰囲気:落ち着いた環境か、利用者同士の関係性は穏やかか
  • 通所のしやすさ:自宅から無理なく通える距離か、交通手段は確保できるか
  • 精神障害への理解:スタッフが精神症状や体調の波について理解があるか
  • 個別対応の柔軟性:体調に合わせて通所ペースを調整できるか、個別面談の頻度は適切か
  • プログラム内容:自分が学びたいこと、必要なスキルに合っているか

初めての場所は緊張するものです。「うまく話さなきゃ」と思わなくて大丈夫です。見学では、スタッフの説明を聞き、「この場所なら通えそうか」「安心して相談できそうか」を感じ取ることが大切です。

複数の事業所を見学して比較することもおすすめです。自分に合う場所を見つけるために、時間をかけても問題ありません。

📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
見学に来られる方の多くが、「迷惑をかけないか心配」と言われます。でも、見学は「お互いに合うかどうかを確認する場」です。遠慮せず、気になることは何でも質問してください。「ここなら安心できる」と思える場所を選ぶことが、長く続けるコツです。

統合失調症のある方の就労移行支援の活かし方

統合失調症のある方は、症状や薬の副作用により、疲れやすさ、集中力の続かなさ、対人場面での緊張などを感じることがあります。こうした特性を踏まえたうえで、就労移行支援をどう活かせるかを考えていきましょう。

統合失調症と働くときのよくある課題

統合失調症のある方が仕事を考えるとき、以下のような課題に直面することがあります。

疲れやすさ・体力の問題
薬の副作用や、病気そのものの影響で、疲れやすさを感じる方が多くいます。フルタイムで8時間働くことが難しい場合、短時間勤務から始めることが現実的です。

集中力が続かない
長時間集中し続けることが難しく、作業の途中で休憩が必要になることがあります。こまめな休憩や、タスクの細分化が有効です。

対人場面での緊張・不安
人との関わりが多い場面で、緊張や不安を感じやすい方もいます。静かな環境で、一人で進められる作業が向いている場合があります。

認知機能の課題
記憶、注意、計画を立てることなどに、やや困難を感じる場合があります。メモを取る、チェックリストを使う、上司に確認するなどの工夫で対応できます。

これらの課題は、「できない」ことではなく、「工夫が必要な部分」です。就労移行支援では、こうした課題に対する具体的な対処法を一緒に見つけていきます。

訓練や配慮のポイント(ペース・環境・仕事の選び方)

統合失調症のある方が就労移行支援を活用するうえで、特に大事にしたいポイントをまとめます。

無理のない通所ペースから始める
最初から週5日通う必要はありません。週2日、午前中だけから始め、体調を見ながら徐々に増やしていくことが大切です。「通えた」という小さな成功体験を積み重ねることで、自信がついてきます。

静かで落ち着いた環境を選ぶ
騒がしい環境や、人の出入りが激しい場所は、疲れやすくなります。見学のときに、事業所の雰囲気をよく確認しましょう。個別ブースがある、静かな作業スペースがある事業所は、集中しやすいです。

こまめな休憩と、体調の記録
50分作業して10分休憩、というように、こまめに休憩を取る習慣をつけます。また、毎日の体調を記録することで、「どんなときに疲れるか」「どのくらいなら無理なく続けられるか」が見えてきます。

単純作業や、ルーティン化しやすい仕事を選ぶ
複雑な判断や、臨機応変な対応が求められる仕事よりも、手順が決まっている作業、繰り返しの作業の方が、負担が少ない場合があります。データ入力、検品、清掃、軽作業などが向いている方もいます。

在宅訓練・リモートワークも視野に
対人場面が苦手な方、通勤自体が負担になる方は、在宅訓練や、将来的にリモートワークができる職種を目指すのも選択肢です。IT系のスキルを学べる事業所もあります。

統合失調症のある方が就労移行支援を使うときの3つのポイント

  1. 体調に合わせたペース設定:週2日・午前中だけから始め、焦らず徐々に増やす
  2. 落ち着いた環境の選択:騒がしくない、個別スペースがある事業所を選ぶ
  3. 工夫とツールの活用:メモ、チェックリスト、こまめな休憩で負担を軽減

うつ病からの仕事復帰と就労移行支援

うつ病で休職中の方や、いったん退職したあとに「もう一度働きたい」と考えている方の多くが、「また同じように無理してしまうのでは」「今の職場に本当に戻っていいのか、それとも転職した方がいいのか」といった不安を抱えています。

就労移行支援は、こうした不安に寄り添いながら、無理のない復職や再就職のステップを一緒に考えていく場です。

うつ病からの復職・再就職でつまずきやすい点

うつ病の方が仕事復帰を考えるとき、以下のような点でつまずきやすい傾向があります。

焦りと完璧主義
「早く元の状態に戻さなきゃ」「みんなに迷惑をかけている」という焦りから、無理をして再発してしまうケースがあります。完璧を目指さず、「今の自分にできる範囲」で進めることが大切です。

復職のタイミングが分からない
「もう大丈夫」と思って復職したら、すぐにまた体調を崩してしまった、という経験をお持ちの方も多いです。主治医や支援者と相談しながら、段階的に負荷を上げていくことが重要です。

職場での理解が得られない
病気のことを職場に伝えても、「見た目は元気そうだから大丈夫でしょ」と言われたり、配慮してもらえなかったりすることがあります。こうした場合、就労移行支援を経由して、配慮のある職場を新たに探すことも選択肢です。

再発への恐怖
「また同じことになったらどうしよう」という不安が強く、一歩を踏み出せないこともあります。この不安は自然なものです。少しずつ、安心できる環境で試していくことで、自信を取り戻していけます。

就労移行支援でできる「リハビリ出勤」のような使い方

就労移行支援は、復職前の「リハビリ出勤」のような役割も果たします。

段階的に通所ペースを上げる
最初は週2日、午前中だけから始め、体調を見ながら週3日、週4日、週5日と増やしていきます。無理なく続けられるペースを見つけることが、再発予防につながります。

通所時間を伸ばしていく
午前中だけ(10時〜12時)から始め、徐々に午後まで(10時〜15時)、最終的にフルタイム(10時〜16時)まで伸ばしていきます。焦らず、体調の波を見ながら調整します。

ストレス対処法を身につける
うつ病の方にとって、ストレスへの対処法を知っておくことは非常に重要です。認知行動療法的なアプローチ、リラクゼーション、気分転換の方法などを、プログラムを通じて学びます。

自分の「赤信号」を知る
「眠れなくなる」「食欲がなくなる」「朝起きられない」など、自分が不調になるときのサインを知り、早めに対処する習慣をつけます。支援者や主治医と共有しておくことで、再発を防げます。

うつ病から仕事復帰を目指す方のポイント3つ

  1. 頑張りすぎない習慣:60%の力で続けられるペースを守る
  2. 段階的な負荷の上げ方:週2日→週3日→週5日と、焦らず増やす
  3. 早期サインのキャッチ:不調の兆候を記録し、早めに相談する

📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
うつ病からの復職で大切なのは、「頑張りすぎないこと」です。真面目な方ほど、「もっとできるはず」と無理をしてしまいます。でも、60%の力で続けられることの方が、100%の力で短期間だけ頑張ることよりも、ずっと価値があります。「少し物足りないくらい」がちょうどいいと思ってください。

双極性障害のある方の働き方と就労移行支援

双極性障害のある方にとって、大きな課題の一つが「気分の波」です。調子の良いとき(躁・軽躁)と、落ち込むとき(うつ)の差が大きく、仕事のペースをどう保つかが難しい場合があります。就労移行支援では、この波に対応しながら、長く働ける方法を一緒に考えます。

双極性障害と仕事の難しさ(波との付き合い方)

双極性障害のある方が仕事で直面しやすい課題を整理します。

躁・軽躁状態での過活動
気分が高揚しているとき、「何でもできる」と感じて、無理なスケジュールを組んだり、引き受けすぎたりすることがあります。その後、反動で落ち込みが来ると、仕事が続けられなくなります。

うつ状態での活動低下
気分が落ち込んでいるときは、起き上がることすら辛く、仕事に行けなくなります。この時期に無理をすると、さらに悪化します。

気分の波の予測が難しい
「いつ調子が悪くなるか分からない」という不安が常にあり、長期的な計画が立てにくいと感じます。しかし、記録を続けることで、ある程度のパターンが見えてくることもあります。

周囲の理解が得られにくい
調子の良いときは普通に働けるため、「サボっているだけでは」と誤解されることがあります。双極性障害の特性を理解してくれる職場を選ぶことが重要です。

就労移行支援で整える「働きやすいリズム」と配慮

双極性障害のある方が、就労移行支援で特に意識したいポイントをまとめます。

生活リズムの安定を最優先に
双極性障害では、生活リズムの乱れが気分の波を引き起こす要因になります。毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝る、規則正しい食事をとる——こうした基本的なリズムを、通所を通じて整えていきます。

「過活動」を防ぐための歯止め
調子が良いときこそ要注意です。「もっとできる」と感じても、決めたペース以上は無理をしない、という約束を支援者と決めておきます。周囲が気づいて、ブレーキをかけてくれる環境が大切です。

落ち込み時の「無理しない」対応
うつ状態のときは、通所ペースを落としたり、短時間参加にしたりする柔軟な対応が必要です。「来られないのは仕方ない」と認めてもらえる環境が、安心につながります。

気分の記録を習慣化
毎日の気分、睡眠時間、活動量などを記録します。これを続けることで、「どんなときに調子を崩しやすいか」「どのくらいの活動量なら安定するか」が見えてきます。

配慮事項を明確にする
就職活動の際に、「週4日勤務」「午前中は調子が悪い日があるため、出勤時間は柔軟に」など、具体的な配慮事項を整理しておきます。就労移行支援の支援者が、企業との間に入って調整してくれます。

双極性障害のある方が就労移行支援を活かす3つのポイント

  1. 生活リズムの安定:毎日同じ時間に起床・就寝し、規則正しい生活を
  2. 過活動の防止:調子が良くても決めたペース以上は無理をしない
  3. 気分の記録と共有:毎日の状態を記録し、支援者と共有する

病気ごとの課題と就労移行支援での工夫

病気 よくある課題 就労移行支援での工夫
統合失調症
  • 疲れやすさ
  • 集中力が続かない
  • 対人場面での緊張
  • 認知機能の課題
  • 週2日・午前中から開始
  • こまめな休憩
  • 静かな環境の選択
  • メモ・チェックリスト活用
うつ病
  • 焦りと完璧主義
  • 復職のタイミング
  • 再発への恐怖
  • 頑張りすぎてしまう
  • 段階的なペース設定
  • 60%の力で続ける
  • ストレス対処法の習得
  • 赤信号サインの共有
双極性障害
  • 気分の波
  • 躁・軽躁時の過活動
  • うつ状態での活動低下
  • 波の予測が難しい
  • 生活リズムの安定化
  • 過活動の防止
  • 気分の記録習慣
  • 柔軟なペース調整

メンタルヘルスを守りながら働くための支援の受け方

精神障害のある方にとって、「働くこと」と「メンタルヘルスを守ること」は、両立させなければならない大きなテーマです。就労移行支援では、一人で抱え込まず、主治医・支援者・家族とチームで支える仕組みがあります。

主治医・就労移行・家族のチームで支えるイメージ

就労を考えるとき、「自分一人で頑張らなきゃ」と思う必要はありません。以下の三者が連携することで、無理のない働き方を実現できます。

主治医(医療チーム)
症状の管理、服薬の調整、診断書の作成などを担当します。「今の体調で、どのくらいの活動が可能か」を医学的に判断してくれます。

就労移行支援(福祉チーム)
働くための訓練、事業所とのマッチング、職場実習、就職活動のサポート、就職後の定着支援を担当します。体調の変化を見ながら、柔軟にペースを調整します。

家族・パートナー
日常生活の様子を一番よく知っている存在です。「最近疲れているみたい」「朝起きられなくなっている」といった変化に気づき、支援者に伝えてくれることがあります。

この三者が情報を共有し、連携することで、無理のない働き方が実現します。「体調が悪いとき、誰に相談すればいいか」を明確にしておくことが大切です。

つらくなったときに「早めに伝える」ためのコツ

メンタルヘルスを守るうえで最も大切なのは、「限界になる前に相談する」ことです。しかし、多くの方が「迷惑をかけたくない」「弱音を吐きたくない」と我慢してしまいます。

不調のサインを見逃さない

以下のサインが出たら、早めに主治医や支援者に相談しましょう

⚠️黄信号(要注意)
  • 眠れない日が続く
  • 食欲が落ちる
  • 朝起きられない
  • 集中できない
  • 些細なことでイライラする
  • 人と会うのが億劫になる
🛑赤信号(休息必須)
  • 外に出られない
  • 何もする気が起きない
  • 死にたいと思う
  • 幻聴や妄想が強くなる
  • 極端に気分が高揚する
  • 薬を飲めなくなる

早めの相談が再発予防のカギです。「迷惑をかけたくない」と我慢せず、黄信号の段階で支援者や主治医に伝えましょう。相談することは、あなたの強さの証です。

「SOSの出し方」を練習する
「調子が悪い」と言葉にすることが苦手な方も多いです。就労移行支援では、日報や面談を通じて、少しずつ「助けを求める練習」をします。テンプレートを使うのも有効です。

例:「最近、○○の症状が出ています。△△の配慮をお願いできますか?」

相談したら、責められることはない
「相談したら怒られるのでは」と心配する方もいますが、就労移行支援では、相談を歓迎します。早めに相談してくれた方が、対応の選択肢が広がるからです。

自分に合う事業所・働き方を選ぶチェックポイント

全国には多くの就労移行支援事業所があり、それぞれ特色があります。精神障害のある方にとって、「どんな事業所が自分に合うか」を見極めることは、成功の鍵です。

精神障害のある方が見るべき「支援の質」のポイント

事業所を選ぶとき、以下のポイントを確認しましょう。

事業所見学時のチェックリスト

見学のときに、以下のポイントを確認しましょう

精神障害への理解
通所・環境の柔軟性
サポート体制
就職実績

📌 監修者コメント(市原早映/サービス管理責任者)
事業所選びで一番大事なのは、「ここなら相談しやすい」と感じられるかどうかです。プログラム内容も大切ですが、それ以上に、「しんどいときに、素直に『しんどい』と言える関係」を築けるかがカギです。見学のとき、スタッフの雰囲気をよく見てください。

自分のペース・希望に合うプログラムかをチェックする

事業所によって、プログラムの内容や、訓練のスタイルは大きく異なります。

通所ペースの柔軟性
週2日から始められるか、午前中だけの参加も認められるか、在宅訓練の選択肢があるかを確認します。最初から週5日通う自信がない方は、柔軟に調整できる事業所を選びましょう。

プログラムの種類
パソコン訓練、軽作業、グループワーク、ビジネスマナー講座、ストレス対処法など、どんなプログラムがあるかを確認します。自分が「これを学びたい」と思える内容があるかがポイントです。

集団活動と個別活動のバランス
対人場面が苦手な方は、個別で進められる訓練が多い事業所が向いています。一方、「少しずつ人と関わる練習をしたい」という方は、グループワークがある事業所が良いでしょう。

在宅訓練の有無
通所が難しい日がある方、在宅勤務を目指している方は、オンラインでの訓練に対応している事業所を選ぶと良いでしょう。

就職後の「定着支援」と長く働き続けるためのコツ

就労移行支援は、就職したら終わりではありません。就職後も、一定期間は「定着支援」というフォローを受けられます。

利用できる期間や支援の内容は、制度や自治体・事業所によって異なるため、詳しくは事業所のスタッフやお住まいの自治体窓口に確認してみてください。

定着支援でできること

  • 定期的な職場訪問・面談
  • 職場での困りごとの相談
  • 職場との調整(配慮事項の見直し、勤務時間の調整など)
  • 体調管理のサポート
  • 転職が必要になった場合の再支援

就職後、最初の数ヶ月は特に不安が大きい時期です。定着支援を活用することで、「困ったときに相談できる相手がいる」という安心感が得られます。

長く働き続けるためのコツ

  • 無理をしない:60%の力で続けられるペースを守る
  • 定期的な振り返り:週に1回、今週の体調や仕事の状況を振り返る
  • 早めの相談:黄信号のサインが出たら、すぐに支援者や上司に伝える
  • 通院・服薬の継続:仕事が忙しくても、通院は優先する
  • 生活リズムの維持:休日も、平日と同じ時間に起きる習慣を続ける

まとめ:一人で抱え込まず、まずは相談・見学から

精神障害があっても、働き方の選択肢はあります。統合失調症、うつ病、双極性障害——それぞれの特性に合わせた働き方、サポートの受け方があります。

この記事の3つのポイント

  1. 精神障害があっても働き方の選択肢は複数ある
    障害者雇用、短時間勤務、在宅勤務など、自分に合った形を選べます。
  2. 就労移行支援は、医療と仕事の「間」をつなぐ場所
    焦らず、段階的に準備を進めることで、再発のリスクを減らせます。
  3. 一人で抱え込まず、チームで支えてもらう
    主治医、支援者、家族と情報を共有し、連携することが成功の鍵です。

今日からできる小さな一歩(3ステップ)

今日からできる小さな一歩

焦る必要はありません。自分のペースで、一歩ずつ進んでいきましょう

1
情報を集める

自分の住んでいる地域の就労移行支援事業所を、インターネットで検索してみましょう。「(市区町村名) 就労移行支援」で検索すると、一覧が出てきます。

2
主治医に相談する

次回の診察で、「働くことを考えている」「就労移行支援の利用を検討している」と伝えてみましょう。主治医の意見を聞くことが、最初の一歩です。

3
見学を予約する

気になる事業所が見つかったら、見学の予約を入れてみましょう。電話が苦手な方は、メールやWebフォームで申し込める事業所もあります。

大切なこと:すべてを一度にやる必要はありません。今日はSTEP1だけ、来週STEP2、というペースでも十分です。あなたのペースで、無理なく進めてください。

焦る必要はありません。自分のペースで、一歩ずつ進んでいきましょう。

出典・一次情報

厚生労働省:障害者の就労支援について(制度概要)
障害者総合支援法(e-Gov法令検索)
厚生労働省:精神障害者の雇用状況
障害者職業総合センター:精神障害者の就労支援に関する研究

監修者情報

監修者 市原早映の写真

この記事の監修者

市原 早映(いちはら さえ)

サービス管理責任者介護職員初任者研修修了

2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。

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