この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。
「就労移行支援でプログラミングって本当に学べるの?」「未経験だけど自分にもできる?」「プログラミングを学んで、どんな仕事に就けるの?」
こうした不安を抱えるのは、あなただけではありません。障害がありながらIT業界を目指す方の多くが、同じ疑問を持っています。
この記事では、以下の内容についてわかりやすく解説しています。
- 就労移行支援でプログラミングは本当に学べるのか
- 未経験でもついていけるのか(よくある7つの不安に回答)
- どんな言語が学べて、どのくらいの期間で何ができるようになるのか
- 障害特性ごとのプログラミングとの相性
- 就職先の職種・給与・リモート勤務の可能性
- IT特化型事業所の選び方と見学のポイント
読み終える頃には、「自分がプログラミングを学ぶなら、どんなステップを踏めばいいのか」が具体的にイメージできるようになります。
就労移行支援でプログラミングは本当に学べる?【結論から】
IT特化型の就労移行支援事業所を選べば、プログラミングを体系的に学べます。
ただし、すべての事業所でプログラミングが学べるわけではありません。事業所によってカリキュラムの方向性は大きく異なるため、「IT特化型」であるかどうかが重要なポイントになります。
IT特化型の事業所なら体系的に学べる
IT特化型の事業所では、プログラミング未経験の方を前提としたカリキュラムが整備されています。
実際に就労移行ITスクールの公式サイトでは、76種類以上の個別カリキュラムが用意されており、HTML/CSS、JavaScript、Python、Java、PHP、Ruby、React、MySQL、GAS、VBAなど幅広い言語を学べると記載されています(公式サイトより)。
また、Neuro Diveの公式サイトでは、5,500以上の講座から約100講座を厳選し、現役エンジニアやデータサイエンティストが直接指導する体制が整っていると紹介されています(公式サイトより)。
このように、IT特化型の事業所では「なんとなくパソコンを触る」のではなく、就職に直結するスキルを段階的に習得できる環境が用意されています。
一般のプログラミングスクールとの3つの違い
就労移行支援とプログラミングスクールは、どちらもプログラミングを学ぶ場ですが、仕組みが大きく異なります。以下の3つの違いを押さえておきましょう。
費用の違い
一般的なプログラミングスクールは数十万円の受講料がかかります。一方、就労移行支援は障害福祉サービスの一つであり、多くの利用者が自己負担なしで利用しています。費用面のハードルが低いため、「まず試してみる」ことができるのは大きな違いです。
障害への配慮
プログラミングスクールは基本的に健常者を想定したペースで進みます。就労移行支援では、体調の波や障害特性に合わせた個別の学習計画が組まれるため、無理なく続けやすい環境です。
就職活動の支援
スクールでは「スキルを教える」ことが主な役割ですが、就労移行支援では履歴書作成、面接練習、企業実習、就職後の定着支援(最大3年半)まで一貫してサポートが受けられます。特に障害者雇用枠での就職活動に精通したスタッフがいる点は、スクールにはない強みです。
ただし、プログラミングスクールの方がカリキュラムの深さや学習スピードで優れている場合もあります。あなたの状況に合わせて選ぶことが大切です。
プログラミングが学べない事業所もある(注意点)
就労移行支援事業所は全国に約3,500カ所以上ありますが、そのすべてでプログラミングが学べるわけではありません。
多くの事業所では、ビジネスマナーや軽作業、事務スキルの訓練が中心です。プログラミングを本格的に学びたい場合は、「IT特化型」「プログラミング対応」を明示している事業所を選ぶ必要があります。
未経験でも大丈夫?よくある7つの不安に回答
プログラミング未経験の方が抱きやすい7つの不安に、具体的なデータをもとに回答します。
「数学が苦手だからプログラミングは無理」と感じる方は多いですが、Web系の開発に高度な数学はほとんど必要ありません。
たとえばHTML/CSSでWebページを作る、JavaScriptでWebアプリを動かすといった作業に、微分積分や方程式の知識は使いません。必要なのは「もしAならBを実行する」「Cを10回繰り返す」といった論理的な思考です。
ただし、AI・機械学習の分野に進む場合は統計学や線形代数の基礎知識が求められます。まずはWeb系の言語から始めて、必要に応じて数学的な知識を補うのが現実的なステップです。
IT特化型の事業所では、パソコン未経験の方も想定したカリキュラムが組まれています。
実際に就労移行ITスクールの公式サイトでは「パソコン未経験の方でも安心して学べる」と記載されており、タイピングやファイル管理などの基礎操作から段階的にステップアップできる環境が整っています(公式サイトより)。
「いきなりプログラミングを始める」のではなく、パソコンの基本操作から始められるので安心してください。
プログラミングの独学で挫折した経験がある方にこそ、就労移行支援は合っています。
民間調査によると、プログラミング学習者の約90%が途中で挫折した経験があるとされています(侍エンジニア調査)。挫折理由の上位は以下の通りです。
→ IT特化型の事業所では、現役エンジニアやIT講師が常駐しており、分からないことをすぐに質問できます。
→ 事業所への通所リズムがあるため、「今日もやろう」という習慣が自然に身につきます。同じ目標を持つ仲間の存在もモチベーション維持に効果的です。
→ エラーが出てもすぐに講師に相談でき、精神的なサポートも受けられます。
独学で挫折した原因の上位3つを、就労移行支援の環境はすべてカバーしています。「独学で無理だった=プログラミングに向いていない」ではなく、「学習環境が合っていなかった」可能性が高いです。
就労移行支援の利用期間は原則最長2年間です。この期間内に就職レベルまで到達できるかは、事業所のカリキュラムとあなたの学習ペースによって異なります。
ディーキャリアの公式サイトによると、利用者の利用期間は早期就職志向の方で3〜6ヶ月、平均で10〜14ヶ月、じっくり取り組む方で1年半程度と記載されています(公式サイトより)。
2年間あれば基礎から応用、ポートフォリオ作成、就職活動まで十分に取り組める期間です。ただし、体調の波や障害特性によってペースは異なります。「2年で全員がエンジニアになれる」わけではなく、あなたの状況に合わせた現実的な目標設定が大切です。
詳しい到達レベルの目安は、後述の「期間別の到達レベル目安」で解説します。
プログラミングとWebデザインは、必要な適性が異なります。
プログラミングは「論理的に考えること」が中心です。「この条件のときにこう動く」というルールを組み立てていく作業が得意な方に向いています。一方、Webデザインは「視覚的に表現すること」が中心で、色・レイアウト・フォントなどを組み合わせて見た目を作る作業が好きな方に向いています。
迷っている場合は、見学時に両方の体験ができるか事業所に相談してみましょう。実際に手を動かしてみることで、自分に合う方向性が見えてきます。
生成AIの登場で「プログラマーの仕事がなくなるのでは?」と不安に感じる方もいるでしょう。
確かに、AIがコードを自動生成する技術は急速に進歩しています。しかし、AIが生成したコードの品質を判断し、修正・改善できる人材は依然として必要です。プログラミングを学ぶことは、「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIを使いこなす側になる」ためのスキル投資と捉えることができます。
経済産業省の調査では、高位シナリオで2030年にAI人材が約12.4万人不足すると試算されています(経済産業省「IT人材需給に関する調査」)。AIを活用できる人材の需要はむしろ拡大しており、プログラミングの基礎知識はその土台になります。
「障害者雇用=単純作業」というイメージを持つ方もいますが、IT特化型の事業所で専門スキルを身につけた場合は、スキルを活かした職種に就ける可能性が十分にあります。
実際にNeuro Diveの公式サイトでは、利用者の76%がIT関連の専門職に就いていると記載されています(2025年9月時点、公式サイトより)。就職先の職種にはデータ分析、AIモデル開発、RPA、DX推進などが含まれています。
また、就労移行ITスクールの公式サイトでは、就職者の約8割がスキルを活かした職種に就いていると記載されています(公式サイトより)。
「データ入力しかやらせてもらえない」という状況を避けるためにも、就職活動時にポートフォリオ(作品集)で自分のスキルを具体的に示すことが重要です。
就労移行支援で学べるプログラミング言語と学習内容
学べる主な言語一覧と用途
IT特化型の事業所では、複数のプログラミング言語を学べます。主な言語と用途を整理します。
Webページの見た目を作る
Webページに動きをつける
データ分析・AI・自動化
業務システム・Androidアプリ
Webサービスの裏側を作る
Webアプリ開発
データベースの操作
統計分析・データ可視化
Excel業務の自動化
Google系ツールの自動化
どの言語から始めるかは、目指すキャリアによって異なります。Web系を目指すならHTML/CSS → JavaScript、データ分析を目指すならPython → SQL という順が一般的です。見学時に「自分の目標に合う言語はどれか」を相談してみましょう。
段階別の学習ステップ(基礎→応用→制作)
多くのIT特化型事業所では、以下のような段階を踏んで学習を進めます。
基礎学習(PC操作・プログラミングの考え方)
タイピング、ファイル管理、プログラミングとは何かの理解から始まります。パソコン未経験の方はこの段階からスタートできます。
言語の基礎文法を学ぶ
HTMLでWebページを作る、Pythonで簡単な計算をするなど、実際にコードを書きながら基本的な文法を覚えます。
応用・実践的な制作
学んだ知識を組み合わせて、Webサイトやアプリ、データ分析レポートなどを制作します。チーム開発に取り組む事業所もあります。
ポートフォリオ作成・就活準備
自分のスキルを示す作品集(ポートフォリオ)を完成させ、企業への応募準備を進めます。
就労移行ITスクールの公式サイトでは「面談 → カリキュラム・講座 → 職場見学・実習 → 就労サポート → 定着支援」という5ステップが記載されています(公式サイトより)。事業所によってステップの呼び方は異なりますが、「基礎から段階的に積み上げていく」構造は共通しています。
作れるポートフォリオの具体例
「ポートフォリオを作れる」と聞いても、具体的にどんなものが作れるのかイメージしにくいかもしれません。以下に、事業所で実際に制作されている作品の方向性を紹介します。
ECサイト(ネットショップ)の模擬制作
HTML/CSS/JavaScriptなどを使い、商品一覧・カート機能・問い合わせフォームなどを備えたWebサイトを制作します。ディーキャリアITエキスパートでは、ECサイトの模擬制作を経て企業実習に参加し、システム開発会社に就職した事例が公式サイトに掲載されています(公式サイトより)。
データ分析レポートの作成
BIツール(Tableau、Power BIなど)を使い、地域の統計データや売上データを分析・可視化したレポートを制作します。Neuro Diveでは成果物発表会が定期的に実施されており、実務に近い形でアウトプットの経験を積めます(公式サイトより)。
データ分析コンペティションへの参加
チームシャイニーでは、KaggleやSignateといったデータ分析コンペティションに参加する機会があります(公式サイトより)。コンペの参加実績そのものがポートフォリオになり、就職活動で「実践経験」をアピールできる材料になります。
ポートフォリオは「こんなものが作れます」というスキルの証明です。面接で口頭でスキルを説明するよりも、実際の作品を見せる方がはるかに説得力があります。
期間別の到達レベル目安
以下は、IT特化型の事業所で週4〜5日通所した場合の一般的な到達レベルの目安です。体調の波や障害特性、学習ペースによって個人差があります。
PC操作に慣れ、HTMLとCSSの基礎文法を理解している段階です。簡単な自己紹介ページやお店の紹介ページなど、静的なWebページを1人で作れるようになります。
プログラミングの「考え方」が身についてくる時期で、「コードを書く → 結果が画面に反映される」という体験を通じて、学習の手応えを感じ始める方が多いです。
JavaScriptやPythonなど2つ目の言語に取り組み、動きのあるWebページや簡単なWebアプリを制作できるようになります。
たとえば「ToDoリスト」「天気予報を表示するアプリ」「簡単な電卓」など、実用的な小さなアプリケーションを作れるレベルです。
学んだ技術を組み合わせて、まとまった作品(ポートフォリオ)を1〜2点完成させる段階です。ECサイトの模擬制作、データ分析レポート、チーム開発への参加など、実務を意識した制作に取り組みます。
この段階から企業実習や就職活動の準備を並行して進める方も増えてきます。
ポートフォリオを充実させながら、履歴書・職務経歴書の作成、面接練習、企業実習を経て就職活動に本格的に取り組みます。
企業実習で実際の職場環境を経験することで、「自分に合った働き方」を確認できるのもこの時期のメリットです。
【障害特性別】プログラミングとの相性
障害の種類や特性によって、プログラミングとの相性や学習時のポイントは異なります。ここでは特性ごとの傾向を整理します。
ASD(自閉スペクトラム症)の方
ASDの方に見られる「パターンを見つけるのが得意」「論理的に考えることを好む」「細部への注意力が高い」といった特性は、プログラミングと相性が良い傾向があります。コードの規則性を見抜く力や、バグ(不具合)を発見する注意力は、開発現場で重宝されるスキルです。
一方で、チームでのコミュニケーションや、仕様変更への柔軟な対応に苦手意識を感じる方もいます。就労移行支援では、プログラミングスキルだけでなくコミュニケーションの練習や、変更への対処法も学べます。事業所でチーム開発を経験しておくことで、就職後のハードルを下げられます。
ADHD(注意欠如・多動症)の方
ADHDの方の中には、興味のある分野に対する集中力(過集中)が非常に高い方がいます。新しい技術への好奇心が強く、技術トレンドの変化が早いIT業界と相性が良い面があります。
テストやドキュメント作成など、繰り返しの多い地道な作業で注意が散漫になりやすい傾向があります。また、長期的なプロジェクト管理が苦手な方もいます。事業所ではタスクを細分化する方法や、集中時間と休憩のバランスの取り方を学べます。ツールを活用したタスク管理の習慣を身につけることも効果的です。
うつ病・不安障害の方
プログラミングは一人で集中して取り組める作業が多く、対人ストレスが少ない環境で力を発揮しやすいです。成果が目に見える形で残るため、達成感を得やすいのもメリットです。
体調の波が大きい時期は、通所や学習のリズムを維持することが難しくなる場合があります。エラーが続くと自信を失いやすい傾向もあります。就労移行支援では、体調管理のプログラムやカウンセリングが並行して受けられます。「調子が悪い日は休む」「できたことに目を向ける」といった自分なりのルールを作ることも、支援スタッフと一緒に取り組めます。
双極性障害の方
安定期には高い集中力を発揮できる方が多く、プログラミング学習を効率的に進められます。
躁状態のときに計画を大きく変更したくなったり、うつ状態のときに学習が止まったりと、波の管理が最大の課題です。事業所のスタッフと定期的に面談し、学習計画を体調に合わせて柔軟に調整することが重要です。「調子が良いときに無理をしない」ことも、長く続けるためのポイントです。
向いている人・向いていない人の特徴まとめ
プログラミング学習が向いている傾向がある方
- 論理的に考えることが好き、またはパズルや謎解きが好き
- 1つのことに集中して取り組める時間がある
- 「分からないこと」を調べるのが苦にならない
- 在宅ワークやパソコン中心の仕事に魅力を感じる
- コツコツ積み重ねていく作業が嫌いではない
別の選択肢を検討した方がよい可能性がある方
- 長時間パソコンに向かうことが身体的に難しい
- 人と直接関わる仕事の方がモチベーションが上がる
- エラーや不具合への対処がストレスに感じやすく、回復に時間がかかる
上記はあくまで傾向であり、「当てはまらない=プログラミングができない」ということではありません。実際に体験してみないと分からない部分も大きいため、まずは見学や体験利用で「自分に合うか」を試してみることをおすすめします。
プログラミングを学んだ後の就職先と給与
就職先の職種(プログラマー・SE・Web系・IT事務など)
IT特化型の事業所でプログラミングを学んだ場合、以下のような職種が就職先の選択肢になります。
プログラマー / SE(システムエンジニア)
Webサイトやアプリ、業務システムの開発を行う職種です。プログラマーは主にコードを書く役割、SEは設計から開発まで幅広く担う役割で、プログラマーからSEへステップアップするキャリアが一般的です。
Web系エンジニア / フロントエンドエンジニア
WebサイトやWebアプリの開発に特化した職種です。HTML/CSS、JavaScriptを中心に使います。
データアナリスト / データサイエンティスト
PythonやSQLを使い、データの分析・可視化を行う職種です。Neuro Diveやチームシャイニーのように、データ分析に特化した事業所で学んだ方が目指すことが多いです。
IT事務 / 社内SE / ヘルプデスク
社内のIT環境を管理・サポートする職種です。プログラミングの知識があると対応できる業務の幅が広がり、一般事務よりも専門性を評価されやすいポジションです。
RPA担当 / DX推進
業務の自動化やデジタル化を担う職種です。VBAやGAS、UiPathなどのツールを活用します。
障害者雇用枠での就職の場合、最初からエンジニア専任として採用されるケースは現状では多くありません。ただし、IT事務やテスター(ソフトウェアの動作確認)など「エンジニアの手前」のポジションでもITスキルは十分に活かせます。まずはこうしたポジションからスタートし、実務経験を積みながらキャリアアップしていく方法もあります。
障害者雇用×IT職の年収レンジ(350〜600万円の世界)
ITスキルを身につけることで、給与面に大きな変化が期待できます。
13.0万円
23.6万円
350〜600万円
厚生労働省の同調査では、障害者雇用の主要職種は事務・サービス・生産工程が中心であり、IT関連の専門職はまだ少数です。言い換えれば、ITスキルを持っていること自体が差別化要因になります。
※上記の数字は事業所ごとに算出方法が異なる場合があります。見学時に直接確認することをおすすめします。
在宅ワーク・リモート勤務の可能性
IT職は他の職種と比べて在宅ワーク・リモート勤務がしやすい分野です。
Neuro Diveの公式サイトでは、就職者のリモート勤務率が67%と記載されています(ハイブリッド含む、2024年9月時点、公式サイトより)。通勤のストレスや体力面に不安がある方にとって、リモート勤務の選択肢があることは大きなメリットです。
ただし、リモート勤務が可能かどうかは企業の方針や職種によって異なります。「リモートで働きたい」という希望がある場合は、事業所の就職支援スタッフにその旨を伝えておくとよいでしょう。
就職先の企業規模と業種
IT特化型の事業所からは、大手企業への就職実績もあります。
Neuro Diveの公式サイトでは、就職先として日立製作所、日揮ホールディングス、三菱ケミカル、SHIFT、NTTPCコミュニケーションズ、SUBARU、TBS GLOWDIAなどの企業名が掲載されています(公式サイトより)。
IT系のベンチャー企業やスタートアップだけでなく、大手メーカーや通信企業のIT部門に就職するケースもあるということです。
また、IT人材の需要は業種を問わず拡大しています。経済産業省の調査では、高位シナリオで2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると試算されています(経済産業省「IT人材需給に関する調査」)。IT企業だけでなく、製造業・金融・小売・医療など、あらゆる業種でIT人材が求められている状況です。
就労移行支援でプログラミングを学ぶメリット・デメリット
メリット5つ
費用の負担がほとんどない
就労移行支援は障害福祉サービスのため、多くの利用者が自己負担なしで利用しています。プログラミングスクールに通えば数十万円かかる学習を、ほぼ無料で受けられるのは最大のメリットです。
障害特性に配慮した学習環境
体調の波に合わせて学習ペースを調整でき、メンタル面のサポートも受けられます。「無理をして続ける」のではなく、「自分のペースで確実に進む」学び方ができます。
就職活動を一貫してサポートしてもらえる
スキル習得だけでなく、履歴書・職務経歴書の作成、面接練習、企業実習、就職後の定着支援まで一貫したサポートが受けられます。特に障害者雇用枠での就職活動のノウハウを持つスタッフがいる点は、独学やスクールにはない強みです。
仲間と一緒に学べる
同じ目標を持つ仲間の存在が、モチベーションの維持に大きく貢献します。チーム開発を経験できる事業所もあり、協働作業の練習にもなります。
実務に近い経験(企業実習)ができる
事業所によっては企業での実習機会が用意されています。就職前に実際の職場環境を体験できるため、「入社してみたらイメージと違った」というミスマッチを防げます。
デメリット・注意点3つ
就労移行支援の利用期間は原則最長2年です。高度なプログラミングスキルの習得には限界があるため、事業所での学習を土台にして、就職後も自己学習を続ける姿勢が大切です。
IT特化型の事業所は全体の一部です。お住まいの地域にIT特化型の事業所がない場合、通所が難しくなるケースがあります。在宅訓練やオンライン対応の事業所を検討するのも一つの方法です。
就労移行支援の利用中は、原則として就労(アルバイト含む)が認められていません。収入面の不安がある場合は、障害年金や自立支援医療などの制度も合わせて確認しましょう。
期待値の調整:全員がエンジニアになれるわけではない
IT特化型の事業所で学んでも、全員がプログラマーやSEとして就職できるわけではありません。
事業所ごとのIT職就職率を見ると、就労移行ITスクールで44%、Neuro Diveで76%、チームシャイニーで85%と記載されています(各公式サイトより)。高い数字ではありますが、裏を返せば、IT以外の職種に就く方も一定数いるということです。
ただし、IT職以外に就いた場合でもプログラミング学習が無駄になるわけではありません。事務職でVBAやGASを使って業務を自動化する、データ集計にExcelやSQLの知識を活かすなど、ITスキルはあらゆる職種で役立ちます。
「エンジニアになること」だけをゴールにするのではなく、「ITスキルを活かして自分に合った働き方を見つける」と視野を広げておくことで、就職活動の選択肢が大きく広がります。
※事業所ごとに就職率の算出方法が異なる場合があります。
IT特化型の就労移行支援事業所の選び方
IT特化型の事業所を選ぶ際に確認すべき5つのチェックポイントを紹介します。
チェックポイント①:学べる言語とカリキュラムの深さ
事業所によって学べる言語の種類やカリキュラムの深さは大きく異なります。
就労移行ITスクールのようにHTML/CSSからJava、Pythonまで幅広い言語を網羅する事業所もあれば、Neuro Diveのようにデータ分析・AI分野に特化した事業所もあります。チームシャイニーのようにWebマーケティング・生成AI・データサイエンスの3コース制を採用している事業所もあります(各公式サイトより)。
「何を学びたいか」「どの分野を目指すか」を考えた上で、カリキュラムが自分の目標に合っているかを確認しましょう。
チェックポイント②:IT職への就職実績
事業所の実力を測る指標として、IT職への就職率は重要な判断材料です。
ただし、就職率の数字だけを見て判断するのは危険です。「全就職者に対するIT職の割合」なのか、「利用者全体に対する就職者の割合」なのかなど、算出方法が事業所によって異なる可能性があります。見学時に「この就職率はどのように計算していますか?」と質問することをおすすめします。
チェックポイント③:講師の実務経験
IT業界で実務経験のある講師がいるかどうかは、学習の質に直結します。
就労移行ITスクールでは現役デザイナーや元エンジニアが指導にあたり、Neuro Diveでは現役のエンジニアやデータサイエンティストが直接指導すると記載されています(各公式サイトより)。
「IT講師」という肩書きだけでなく、「どんな実務経験がある講師か」まで確認できると安心です。
チェックポイント④:ポートフォリオ作成のサポート体制
IT職への就職活動では、ポートフォリオ(作品集)が大きな武器になります。
「カリキュラムの中にポートフォリオ制作の時間が確保されているか」「制作時にフィードバックをもらえるか」「過去の利用者がどんなポートフォリオを作ったか」は必ず確認しましょう。
チェックポイント⑤:企業実習・チーム開発の有無
企業実習やチーム開発の経験は、就職活動でのアピール材料になるだけでなく、実際の職場環境への適応力を高めます。
Neuro Diveでは疑似就労プロジェクト(アプリ開発やデータ分析PJ)や企業実習の機会が設けられています(公式サイトより)。就労移行ITスクールでもチームプロジェクトや企業実習があると記載されています(公式サイトより)。
「個人学習だけで終わらない」事業所を選ぶことで、就職後のギャップを小さくできます。
見学で確認すべきポイントと質問リスト
事業所の見学は、Webサイトだけでは分からない雰囲気や相性を確かめる大切な機会です。以下の質問リストを持参すると、聞き漏らしを防げます。
カリキュラムについて
- どの言語を中心に学びますか?自分の目標に合うカリキュラムはありますか?
- パソコン未経験でもついていける内容ですか?
- ポートフォリオ制作の時間はカリキュラムに含まれていますか?
講師・サポート体制について
- IT講師はどんな実務経験がありますか?
- 質問はいつでもできますか?対応してもらえる時間帯は?
- 体調が悪い日の対応(在宅学習への切り替え等)は可能ですか?
就職実績について
- IT職への就職率はどのくらいですか?(算出方法も確認)
- 最近の就職先にはどんな企業がありますか?
- 就職後の定着率はどのくらいですか?
利用条件について
- 通所の頻度は週何日から始められますか?
- 在宅訓練は可能ですか?
- 利用開始までにどのくらいの期間がかかりますか?
見学は1カ所だけでなく、2〜3カ所を比較するのがおすすめです。事業所によって雰囲気やカリキュラムの方向性が異なるため、実際に足を運んで「ここなら通い続けられそうか」を感覚的にも確認してください。
利用料金と利用条件・開始までの流れ
利用料金(9割以上の方が無料)
就労移行支援の利用料金は、前年の世帯所得に応じて月額の自己負担上限額が決まります。
多くの利用者が自己負担なしで利用しています。複数の事業所の公式サイトでも「9割以上の方が無料で利用」と記載されています。
※金額の基準は制度改正で変わる場合があります。詳しくは市区町村の障害福祉窓口でご確認ください。
利用条件と対象者
就労移行支援を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 65歳未満であること
- 一般企業への就職を希望していること
- 障害者手帳を持っている、または医師の診断書があること(手帳がなくても利用できるケースがあります)
障害の種類は問いません。発達障害(ASD・ADHD)、精神障害(うつ病・双極性障害・不安障害・統合失調症等)、身体障害、知的障害のいずれの方も利用可能です。
利用開始までの5ステップ
事業所を探す
お住まいの地域にあるIT特化型の事業所を探します。公式サイトで「学べる内容」「就職実績」を確認し、候補を2〜3カ所に絞りましょう。
見学・体験利用
候補の事業所に連絡し、見学や体験利用を申し込みます。実際の雰囲気や講師との相性を確認する大切なステップです。
受給者証の申請
利用する事業所が決まったら、市区町村の障害福祉窓口で「障害福祉サービス受給者証」を申請します。申請から発行まで1〜2ヶ月程度かかることがあります。
利用契約
受給者証が届いたら、事業所と利用契約を結びます。
通所開始
いよいよ通所スタートです。最初は週2〜3日から始めて、体調を見ながら徐々にペースを上げていく方も多いです。
タイプ別:あなたの次の一歩ガイド
🚀 とにかくIT業界に入りたい人
Web系(HTML/CSS/JavaScript)を幅広く学べる事業所が合いやすいでしょう。Web系のスキルは求人数が多く、未経験からでも就職しやすい分野です。多くの言語を扱える事業所で、自分に合う方向性を見つけていくアプローチが効果的です。
まずは気になる事業所の見学を予約しましょう。
🤖 AI・データ分析に興味がある人
PythonやSQLを中心に、データサイエンスやAI関連のカリキュラムを持つ事業所が合っています。Neuro Diveのように先端IT特化型の事業所や、チームシャイニーのようにデータサイエンスコースを持つ事業所では、データ分析のコンペティション参加など実践的な経験も積めます。
AI人材は経済産業省の調査でも不足が指摘されており、将来性の高い分野です。
🤔 まだIT職か事務職か迷っている人
無理に決める必要はありません。IT特化型の事業所の中にも、プログラミングだけでなくIT事務系のスキル(Excel、VBA、GAS等)を学べるコースを持つ事業所があります。
まずは見学で「プログラミング系」と「事務系」の両方のカリキュラムを体験してみて、自分に合う方向を探していくのが現実的なステップです。
🌱 体調に不安がある・まず生活リズムを整えたい人
体調が安定していない状態で無理にスキル習得を急ぐ必要はありません。多くの事業所では、最初は週2〜3日の通所からスタートし、生活リズムを整えることを優先してくれます。
「まず安定して通えるようになること」が、その後のスキル習得と就職を成功させる土台になります。体調面のサポートが充実している事業所を選び、焦らずあなたのペースで進めましょう。
よくある質問(FAQ)
まとめ
就労移行支援でプログラミングを学ぶことは、十分に可能です。ただし、すべての事業所で学べるわけではなく、「IT特化型」の事業所を選ぶことが前提条件になります。
この記事のポイントを整理します。
- IT特化型の事業所では、パソコン未経験からでもプログラミングを体系的に学べる
- 独学で挫折した方こそ、質問環境・通所リズム・精神的サポートが揃った事業所が合っている
- 学べる言語はHTML/CSS、Python、Java、Rubyなど事業所によってさまざま。目標に合うカリキュラムかどうかが選び方のポイント
- IT職就職率は事業所により44〜85%。エンジニア以外にもIT事務やRPA担当などITスキルを活かせる職種は複数ある
- 障害者雇用枠の平均月収13.0万円に対し、IT特化型事業所の卒業生は平均23.6万円と大きな差がある
全員がエンジニアになれるわけではありませんが、ITスキルを身につけることであなたのキャリアの選択肢は確実に広がります。
まずは気になる事業所の見学を予約して、「自分に合いそうか」を実際に確かめてみてください。
参考サイト
公的データ
経済産業省「IT人材需給に関する調査」(みずほ情報総研株式会社委託) 厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」民間調査
侍エンジニア「プログラミング学習の挫折に関する調査」事業所公式サイト
就労移行ITスクール Neuro Dive チームシャイニー ディーキャリアITエキスパート atGPジョブトレIT・Web求人データ
atGP障害者雇用求人
この記事の監修者
市原 早映(いちはら さえ)
2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。
