MENU

発達障害のある方のコミュニケーションをラクにするAIの使い方|距離感の悩みを解決

この記事は、サービス管理責任者の市原 早映が監修しています。

「このメッセージ、丁寧すぎる?カジュアルすぎる?」

「返信の仕方が思いつかなくて、30分も画面を見つめている」

「口頭で説明すると、いつも『つまり、どういうこと?』と聞き返される」

こんな経験、ありませんか?

発達障害(ADHD・ASD等)の特性があると、コミュニケーションでの「適切な距離感」や「言葉の選び方」は、想像以上に難しい判断になります。周りの人は「普通に返信すればいいじゃん」と簡単に言いますが、その「普通」がわからないんですよね。

この記事では、そんなコミュニケーションの悩みを、AIというツールを使ってラクにする方法をお伝えします。


目次

なぜコミュニケーションがこんなに大変なのか(発達特性との関係)

コミュニケーションが苦手なのは、決して「社会性がない」からでも「努力不足」からでもありません。発達特性による、情報処理の違いが原因です。

ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある場合

暗黙のルールが理解できないため、「どこまで丁寧に書けばいいか」「この状況ではどんな言い方が適切か」という判断が、非常に難しいです。

「普通はこう言う」「常識的に考えて」といった曖昧な基準には、明確な答えがありません。そのため、返信一つにも「これで失礼にならないか」「相手を不快にさせないか」と延々と悩み続けてしまいます。

相手との距離感が測れないのも、大きな困りごとです。同僚に対して上司と同じような丁寧語を使ってしまい、「堅苦しい」と言われる。逆に、上司に対してカジュアルすぎる言葉を使ってしまい、失礼だと思われる。適切な「温度感」がわからないんです。

言葉の裏にある意図が読み取れないことも、コミュニケーションを難しくします。「適当にやっておいて」「いい感じでお願い」と言われても、「適当って、どれくらい?」「いい感じって、具体的にどうすればいい?」と混乱してしまいます。

ADHDの特性がある場合

思いついたことを整理せずに話してしまうため、相手に「結局、何が言いたいの?」と困惑されることがあります。

頭の中では筋道立てて考えているつもりなのに、話しているうちに別の話題に飛んでしまったり、前提を説明し忘れたり。結果、相手に「話がわかりにくい」と言われてしまいます。

言葉の選択に時間がかかるのも困りごとです。返信を書き始めても、「この言い方でいいのかな」と迷って、何度も書き直して、結局送信できないまま時間が過ぎてしまう。

衝動的に返信してしまうこともあります。考える前にパッと返信してしまって、後から「あ、もっと丁寧に言えばよかった」と後悔する。でも、もう送ってしまった後です。

共通する困難

発達障害のある方に共通して見られるのが、「正解」がないことへの不安です。

数学の問題なら答えは一つですが、コミュニケーションには「絶対に正しい言い方」というものがありません。この「正解のなさ」が、大きなストレスになります。

また、口頭での説明の難しさも共通しています。頭の中では理解していることを、相手にわかりやすく説明することができない。「つまり、どういうこと?」と聞き返されると、さらに混乱してしまいます。

これらの困りごとは、コミュニケーション能力の欠如ではなく、脳の情報処理の特性によるものです。適切なツールとサポートがあれば、十分に補うことができます。


AIを使うと、コミュニケーションの何がラクになるのか

AIは、あなたの「どう言えばいいかわからない」という悩みを軽減してくれるツールです。

3つのトーンから選べる

Before(AIなし)

  • 「丁寧すぎる?カジュアルすぎる?」と悩んで、30分経っても決められない
  • 結局、送信できずに時間だけが過ぎる
  • 相手との距離感がわからず、いつも不安

After(AIあり)

  • AIに「丁寧・フラット・簡潔」の3つのトーンで返信を作ってもらう
  • 3つを見比べて、「これなら送れそう」を選ぶだけ
  • 「選ぶ」だけなら、判断がラク

複雑な説明を図にしてくれる

Before(AIなし)

  • 口頭で説明すると、相手が「?」という顔をする
  • 「つまり、どういうこと?」と聞き返される
  • 文章で説明すると、長くなりすぎて読んでもらえない

After(AIあり)

  • 説明したい内容をAIに渡すと、フロー図に変換してくれる
  • 「まず①→次に②→最後に③」という流れが、視覚的にわかる
  • 図を見せながら説明すれば、相手に伝わりやすい

相手の言葉の「真意」を推測してくれる

Before(AIなし)

  • 「例の件、どうなってる?」と言われても、「例の件」が何かわからない
  • 「適当にやっておいて」と言われても、「適当」の基準がわからない
  • 聞き返すのも失礼な気がして、結局何もできない

After(AIあり)

  • 曖昧なメッセージをAIに渡すと、「これは〇〇を指している可能性が高い」と推測してくれる
  • 複数の可能性を教えてくれるので、「どう聞き返せばいいか」もわかる
  • 「わからない」をそのまま伝えるのではなく、確認の仕方を学べる

AI活用のステップ

ステップ1:困っている状況をそのままAIに話す

まず、今困っているコミュニケーションの状況を、AIに伝えます。

例えば、こんな風に:

上司から「来週の火曜、14時から急な会議を入れたいんだけど、大丈夫?」とSlackで聞かれました。
その時間は空いています。
どう返信すればいいでしょうか?

完璧な文章にする必要はありません。状況を説明するだけでOKです。

ステップ2:AIに「3つのトーンで返信を作って」と頼む

次に、AIに3つのトーンで返信を作ってもらいます。

AIに、こんな風にお願いしてみましょう:

この状況で、返信を3つのトーンで作ってください:
1. 丁寧(上司向け)
2. フラット(同僚向け)
3. 簡潔(チャット向け)

すると、AIが3つのバージョンを同時に作ってくれます。

ステップ3:自分が送りやすいトーンを選ぶ

3つの返信を見比べて、「これなら送れそう」と思うものを選びます。

選び方のコツ:

  • 上司・目上の方 → 丁寧
  • 同僚・普段やり取りのある人 → フラット
  • Slack・急ぎの連絡 → 簡潔

迷ったら、「フラット」を選ぶと失敗しにくいです。

必要に応じて、「もう少し短くして」「絵文字を1つ追加して」といった微調整もできます。


AIへのお願い文(プロンプト)の例

ここでは、イメージがつく程度の簡単な例を2つだけご紹介します。

例1:返信を3つのトーンで同時に作る

以下の状況で、返信文を3つのトーンで作成してください。

【状況】
相手:上司
内容:来週火曜14時からの会議の打診
自分の状況:その時間は空いている

【返信の条件】
1. 丁寧(上司向け・フォーマル)
2. フラット(同僚・日常的なやり取り向け)
3. 超簡潔(急ぎの返信・チャット向け)

このように、状況と条件をAIに渡すだけで、3つのトーンで返信が出てきます。

すると、AIがこんな風に作ってくれます:

【1. 丁寧(上司向け)】
承知いたしました。来週火曜日14時からの会議、問題ございません。
場所と議題をご教示いただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。

【2. フラット(同僚向け)】
了解です!火曜14時、大丈夫です。
場所と内容を教えてください。

【3. 超簡潔(チャット向け)】
OK!場所と内容教えて〜

3つを見比べて、相手との関係性に合ったものを選べばOKです。

例2:複雑な説明をフロー図にする

口頭での説明が苦手な方には、AIに図を作ってもらう方法があります。

以下の説明を、視覚的にわかりやすいフロー図にしてください。

【説明したい内容】
新しい企画を提案する時は、まず課長に相談して、OKが出たら企画書を作って、部長に提出します。部長がOKしたら、役員会議で承認を得て、その後に実行チームを編成します。

すると、AIがこんな風に整理してくれます:

【企画提案フロー】

1. 企画アイデアを考える
   ↓
2. 課長に相談
   ↓
3. 課長の判断
   ├─ OK → 4へ
   └─ NG → 企画を再検討(1に戻る)
   ↓
4. 企画書を作成
   ↓
5. 部長に提出
   ↓
6. 部長の判断
   ├─ OK → 7へ
   └─ NG → 課長と再相談(2に戻る)
   ↓
7. 役員会議で承認申請
   ↓
8. 実行チーム編成
   ↓
9. プロジェクト開始

このフロー図を、Slackやメールに貼り付けたり、スクリーンショットを撮って画像として共有したりできます。「言葉で説明する」より、「図を見せる」方が、相手に伝わりやすくなります。


もっと詳しく知りたい方向けの「AIプロンプト集の使い方ガイド」

ここまで、コミュニケーションでAIを活用する基本的な方法をお伝えしました。

「もっと色々な場面でAIを使いこなしたい」という方は、こちらのガイドも参考にしてみてください:

【就労移行】AIプロンプト集の使い方ガイド|生成AI活用方法

このガイドでは、AIプロンプトを上手に使うための基本的な考え方や、様々な業務場面での応用方法が学べます。コミュニケーションだけでなく、メール作成、タスク管理、会議の記録など、幅広い場面でAIを活用する方法が理解できます。

将来的に、コミュニケーションに特化したより詳しいプロンプト集が追加された際にも、このガイドの知識があれば、すぐに使いこなせるようになります。


注意点とまとめ

個人情報や機密情報は書き込まない

AIにメッセージを渡す際、個人情報や機密情報は削除してから渡しましょう。

削除すべき情報:

  • 顧客の個人情報(名前、連絡先)
  • 社外秘のプロジェクト名、製品名
  • 具体的な契約金額、売上データ
  • 機密性の高いトラブル対応やクレーム内容

安全な方法:

固有名詞を置き換える:

【危険な例】
田中商事の山田様から「例の500万円の契約、どうなってる?」

【安全な例】
取引先から「例の契約、どうなってる?」

AIの提案をそのまま使わない

AIが作った返信は「たたき台」です。最終的には自分で確認して、必要に応じて調整してから送りましょう。

確認するポイント:

  • 自分が本当に伝えたい内容になっているか
  • 相手との関係性に合ったトーンか
  • 誤解を招く表現がないか

就労移行支援のスタッフと一緒に使うと安心

就労移行支援を利用している方は、AIの使い方をスタッフと一緒に練習できます。

「この返信、送っても大丈夫でしょうか?」「AIが作った3つのトーン、どれを選べばいいですか?」といった悩みも、一緒に考えてもらえます。

職場でのコミュニケーションの取り方や、困った時の対応方法なども、サポートしてもらえるので安心です。

まとめ:完璧なコミュニケーションは目指さなくていい

「相手の気持ちを完璧に読み取る」のは、定型発達の人でも難しいことです。

でも、「3つのトーンから選ぶ」「図で説明する」なら、できるかもしれません。

AIは、あなたを評価する相手ではなく、苦手を補うための道具です。コミュニケーションという苦手なことを、AIというツールで補えば、あなたは本当に伝えたいことに集中できるようになります。

この記事のポイント

  • コミュニケーションが苦手なのは、発達特性による情報処理の違いが原因
  • AIを使えば、3つのトーンから選ぶだけで返信できる
  • 口頭での説明が苦手なら、AIに図を作ってもらえばいい
  • 正解を探すのではなく、「これなら送れそう」を選べばいい

今日からできること

次にSlackやメールで返信に迷ったら、AIに3つのトーンを出してもらってください。

3つを見比べて、「これなら送れそう」と思うものを選んで、送信してみましょう。

それだけで、「コミュニケーションって、こうやって選べばいいんだ」という感覚を得られるはずです。

AIは、あなたのコミュニケーションの強力なパートナーになってくれます。


5. 記事内で紹介したプロンプト集(A群)のタイトル一覧

監修者 市原早映の写真

この記事の監修者

市原 早映(いちはら さえ)

サービス管理責任者介護職員初任者研修修了

2017年より就労移行支援・定着支援の現場で支援に従事。就労移行の立ち上げにも携わり、現在は定着支援に従事しながら就労移行支援もサポートしています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次